春が見せた夢・・・?

   
「ふにゃ~、今日はいい天気だにゃ~」
ちゃぶ台の上ですっかり緩みきっているネコ娘は本当に猫のように力の抜けきった両腕を伸ばして伸びをし、そして全身の力を抜いて、幸せそうなため息を吐いた。
外はいい天気。
暦の上では春だというのに、急に冬に戻ったかと思うほど寒風吹きすさび、所によれば雪まで降ったという。
隙間だらけのあばら屋であるゲゲゲハウスでは急遽つるべ火が三体増え、ネコ娘はモコモコのダウンジャケット姿で登場した。
それが昨日の事。
今日はうって変わってぽかぽか陽気で、遠くでヒバリやウグイスが鳴いている。
この季節の変わり様はなんだろうと訝しながら鬼太郎は、父のために沸かしたお湯を温めにして、同じくうつらうつらしている父の茶碗へと注ぎ入れた。
「ネコ娘もお茶、飲むだろ?」
「うん、おねがい~」
普段なら率先して自分がお茶を煎れると言ってくるのに、今日はそうではないらしい。
よく言えば安心しきった、悪く言えばだらしなく緩みきった口調でそう返したネコ娘に苦笑を一つ落とし、鬼太郎は彼女がお土産にと持って来た袋を開ける。
幅広く底浅い袋の中にはいっていたのは、細いリボンがついた白い箱と紅茶パック。
「それね~、近所においしいチーズケーキのお店ができてたの~」
箱を開けるとふっくらと盛り上がった卵色の丸い手のひらサイズのチーズケーキが六個入っていた。
「六つ?」
「あたしとぉ~、鬼太郎とぉ~、おやじさんとぉ~、つるべ火に~」
ああ、なるほど。
彼らだって大変だろうにわざわざ来てくれて、この家を温めてくれたのだ。
ネコ娘の行き届いた気配りに感嘆する。
目玉親父が湯船の中からネコ娘の優しさを褒め、鬼太郎の家に常時付いているつるべ火も礼を言うかのように赤みを増して震えた。
寝たままのネコ娘は目を細めて嬉しそうに「にゃあ~」と笑った。
「じゃあ・・・アイツが来ないうちに」
はい。とつるべ火にチーズケーキを三つ渡す。
「仲間に渡しておいでよ」
さっさと食べてしまわないと鼻の利く厄介なヤツが嗅ぎ付けてやって来てしまう。
どんなに隠してもあの男は絶対に見つけて遠慮も外聞もなくひょいと口に放り込んでしまうだろう。
つるべ火は慌ててチーズケーキを燃やさないように器用に炎の中に包み込み、仲間の元へ飛んでいった。
「父さん、アールグレイですよ」
「おお~。それは嬉しいのぉ~」
お風呂好きの目玉おやじのためにいろいろな入浴剤などを試したところ、アールグレイの紅茶が一番お気に入りとなった目玉おやじは嬉しそうに目を細めた。
早速、アールグレイ湯に浸る目玉おやじは気持ちよさそうな声をあげて肩まで浸かった。
外は小春日和。
ぽかぽか陽気の日差しが窓から室内に降り注ぎ、つるべ火がいなくても暖かくて、鬼太郎が午後のお茶の用意をしている音を聞きながらネコ娘はうつらうつらし始め、そして眠りに誘われた。
心地よい風がそっと髪を撫でる。
それがなんだか頭を撫でて貰っているような気がして、ネコ娘は幼い頃に戻ったような、そんな気分で闇に落ちていった。
 
 
 
 
◆◇◆◇
 
 
 
 
「・・・娘、ネコ娘・・・・」
誰かが呼んでいる。
「ネコ娘・・・」
肩が軽く揺さぶられていて、ネコ娘はその振動で深い眠りから浮上した。
 
ん・・・?誰だろ?
 
聞いたことあるようで、知らない人のような男の人の声。
「あ~」
小さな子供の声が耳の傍で聞こえた。
「あ、ダメだよ。お母さんは寝てるんだから。・・・でもこのままだと風邪引きそうだしなぁ~」
「あ゛~っ」
「わっ。こらっ、そんなモノ口にくわえちゃ」
今度はちがう子供の声。
お父さんらしき男の人が慌てて子供から何かを引き剥がしているのが気配で分かる。
くすりと笑みが零れる。
ぽかぽか陽気。
心地よい風。
安心できる空気。
居心地が良くて、ネコ娘は幸せな気分で再び眠りに就こうとした。
 
でも、さっきの声たちの主が知りたくて、うっすらと瞼を開いた。
 
 
「・・・・・・・・・・・え?」
 
 
そこにいたのは、黄色と黒の縞模様のセーターを着た青年の姿をした鬼太郎と、その膝に乗っている双子と思わしき赤ん坊。
男の子と女の子の双子。
男の子の方は勝ち気そうな金色の大きな瞳に八重歯。赤みの強い茶色い髪から覗く耳は微かに尖っていた。
 
あたし、そっくり・・・・。
 
女の子の方は丸っこい大きな瞳とふっくらとした頬があどけなく、おっとりした大人しい感じ。
亜麻色の髪が片目を隠すように伸びれば・・・・。
 
鬼太郎、そっくり。
 
「おとぉさぁ~ん、おかあさん起きたぁ~?」
 
え?
もう一人いるの!?
 
鬼太郎とおぼしき青年が声のした方を向いた隙に顔を上げると、台所から目玉おやじを肩に乗せた女の子がこちらにやってくるのが見えた。
 
その顔は────
 
 
 
 
 
 
「えええっっっ!!!!!!」
「うっぎゃあっっっ」
 
 
大声をあげて突然飛び起きたネコ娘に驚いたねずみ男がひっくり返る。
「あ、ネコ娘、起きた?」
傍で鬼太郎と目玉おやじがのんきにチーズケーキを口に入れてもごもごやっていた。
「あ、えっ・・・ええっ?」
きょろ、きょろと忙しく辺りを見渡すネコ娘に鬼太郎はのんびりと声をかける。
「早く食べないと、ねずみ男にとられちゃうよ」
用意されたチーズケーキ。
起きてから煎れようと紅茶は煎れてない。
「そ、そんなことどーだっていいのよっ」
大人になった鬼太郎と、自分似の男の子と鬼太郎似の女の子の双子。
そして、目玉おやじと一緒に出てきたのは少しお姉さんなネコ娘似の女の子。
これは・・・つまり・・・・。
「んじゃあ、これはオレがもらうとして~」
パニックになって固まるネコ娘の横から汚い手が伸びる。
狙うはテーブルにあるお宝・・・もとい、美味そうなチーズケーキ。
 
 
ギラッ。とネコ娘の目が光る。
 
 
「図々しいニャーーーーーーーーーっっっっ!!!!」
 
 
ビャッと鋭い四本の白い筋が閃き、ねずみ男の顔に赤い格子模様が刻まれる。
凄まじい絶叫。
それを聞きながら鬼太郎と目玉おやじはのんびりゆったりと紅茶を啜る。
 
ああ、良い陽気ですね・・・。
そうじゃな・・・。
 
尻に帆かけながら飛んで逃げるねずみ男にネコ娘はフーッとばかりに戸口で威嚇して仁王立ち。
はぁはぁぜぃぜぃと肩で息をして、ハッと気づく。
ぽかぽかと良い天気。
小鳥はさえずり、水面はキラキラと輝いている。
春の陽気に蝶々がひらひらと舞い、小さな野花が可愛らしく咲き乱れている。
「ネコ娘」
呼ばれて振り返ると鬼太郎がにっこり笑って手招いていた。
「お茶、煎れたよ。ケーキ、美味しいよ」
嬉しそうに笑う彼の笑顔は何者にも代え難いネコ娘にとっての宝。
いつか・・・いつか・・・。
あの夢が、本当になったら・・・・。
ポッと頬を赤く染めたネコ娘に鬼太郎は不思議そうに首を傾げた。
 
 
 
春が見せた・・・・夢・・・・・・?
 
 
 
 
 
 
〈完〉
 

 

 

ヒノさんからいただきました!

私の捧げた「鬼太郎似の娘とネコ娘似の息子」。

そのイラストから生まれた妄想だそうです!

突然のプレゼントにビックリしましたが、こんなサプライズなら大歓迎です~♪(*´∀`人)

柔らかな雰囲気が伝わってくる、あったかいお話です!

心がぽかぽかします♪

ステキな作品、本当にありがとうございました!!

 

 

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