雪うさぎがくれたもの

  扉を開けたとたん、ネコ娘はその寒さにぶるりと震えて、
 首に巻いたマフラーを唇の上まで引っ張りあげた。
 外はすでに闇が支配する夜の世界だ。
 にゃっ、今日は一段と寒そうね……と思いつつ、
 ネコ娘はくるりと首を後ろにまわして、声をかける。


「それじゃあ、お先に失礼しまーす」

「暗いから気をつけてね」

「はあい、じゃあまた明日も、よろしくお願いします」


 中にまだ残っているバイト仲間や上司達は、笑顔でネコ娘を見送ってくれる。
 「うわあ、寒そうだなあ!」と誰かが声をあげたのに小さく苦笑を残して、扉を閉めた。

 

 

 夜の人間の街を歩く。
 日本の中枢であるこの東京の街は、眠ることを知らない。
  冬、それも時間帯は夜だというのに街は光に溢れている。
 店の傍でたむろう若者達、
 どこかテンションが高い背広姿の中年の集団、腕を組んで歩く恋人。
 本当に人間達は陽気だ。いつしか時代は変わり、
 人間達は当たり前のように夜にも活動をし始めた。
 その姿は自分達妖怪とほとんど変わらないのではないだろうか―――。
 そんなことをぼんやりと考えながらも、ネコ娘は足を横丁へと急がせる。
 寒くて仕方がないし、お腹がすいているからはやく帰って晩ご飯を食べたい。
 そんなことを思いながらもくもくと歩いていたネコ娘だったが、
 いつしか彼女の足どりと心は重いものへと変わっていた。
 ずっと考えないようにしていたことなのに―――どうしてもだめだ。
 無意識に違うことを考えようと努めているのに、
 気がついた時には、どうしたって彼のことしか見えなくなってるのだ。

 

「……鬼太郎……」

 

 浮かんだのはゲゲゲハウスの窓から頬杖をついて外を眺めた姿の、
 ネコ娘の幼なじみであり、他の誰よりも自分にとって特別な存在の彼だった。
 彼の――鬼太郎の色んな表情を知っているのに、
 今のネコ娘の真新しい記憶の中に浮かんだ彼の姿が、
 後ろ姿しか見えないのはここ最近会っていないからだろうか。

 

 ――喧嘩を、した

 

 その時のことを思い出して、ネコ娘はその場に立ちどまって、視線をアスファルトへと落とした。
 喧嘩――といえるものだったかわからないけど、本当に始めは些細なことだったと思う。
 それもあたしの身勝手な、一方通行のような。

 

 

 

 あの日――

 ネコ娘はいつものように、ゲゲゲハウスへと遊びにいったのだ。
 人間の友達に貰った美味しい菓子を(一緒に猫のぬいぐるみも貰った)鬼太郎と目玉の親父と一緒に食べようと思った。
 ――けれど。
 簾を上げた先に居た鬼太郎は、何やら熱心に手の中にあるものに視線を落としていて。
 何か尋ねれば、以前に助けた依頼人からの手紙だと、彼は教えてくれた。
 それだけなら、ネコ娘も「よかったね」と素直に思えたのだけど、どうやらそれだけではいかなかった。
 お茶の用意をして、持ってきた菓子を卓袱台に並べても、鬼太郎は一向に顔をあげなかった。
 視線は手紙から離れない。
 時折、手紙の文字を追っている鬼太郎が、かすかに頬を染めたり、口元を緩める。
 目玉の親父は慣れたことなのか、特に気にする素振りを見せずに、
 彼女が持ってきてくれた菓子にありつく。
 そんな中で、鬼太郎をほんの少しだけむすっとした表情で、
 卓袱台に頬杖をつきながら眺めていたネコ娘だが、
 いつまで経ってもこちらを見ない鬼太郎に、
 何故か腹が立ってしまって――吐き捨てるように言葉をぶつけてしまった。

 

「――なんか、男の人って不潔よね」

 

 ぼそりと、けれど鬼太郎に聞こえても構わないと思いながら口にしたネコ娘のそれに、
 やっと鬼太郎が顔をあげた。
 どうしたの、という感情が顔に表れている。

 

「ネコ娘?」

「だってそうじゃない。鬼太郎だって、好いてくれる女の子なら、誰だっていいんでしょ」

「………それ、どういう意味だい?」

 

 しまった。
 そう思ったがもう遅い。鬼太郎の、1オクターブ程下がったような低い声が聞こえてきて、
 ネコ娘はほんの少し、びくんっと身体を揺らした。
 が、ネコ娘はもう後には戻れなくなっていた。

 ……どういう意味って、そのままの意味じゃないの……

 鬼太郎の普段の様子を見ていれば、きっと誰だって思うことではないのか。
 依頼人が女性――特に年上の美人で、なおかつ穏やかな人に鬼太郎はいつも優しい。
 時には頬を染めたりだって、珍しいことでもない。
 そしてそんな鬼太郎を、自分はずっと傍で見てきたのだ。
 その胸の内に彼を想う気持ちを持ちながら。
 ……だけどいつも……。
 いつだって。
 鬼太郎がネコ娘に対して何かを示すわけでもない、何かを言ったりすることはない。
 助けにきてくれたとしても、それはきっと大切な“仲間”だから。
 けれど時々思うのだ。
 彼は鈍感で自分の気持ちに気づいてないだろう、そう思うのとは反対に、
 鬼太郎は自分の気持ちを知ってるくせに、と。
 鬼太郎が何を考えてるかなんて自分にはわからない―――わからないからこそ、
 時に鬼太郎の一言に胸が苦しくなる程に傷ついたり、
 苛立ちを覚えてしまうことが、ネコ娘にはあったのだ。

 ――そこまで考えてしまうと、押さえきれない何かが込み上げてくる――

 ネコ娘は絞り出すように、蚊が鳴くように、その唇から先程、心に浮かんだ言葉が溢れた。

 

「……どういう意味って、そのままの意味じゃない……」

「だからそれじゃ わからないじゃないか」

「――!」

 

 抑揚のない鬼太郎の声。けれどそれは、呆れたような、ほんの少しの苛立ちを含んだものだった。
 いつものネコ娘ならば、彼を怒らしただろうか、とその方面を気にしたはずだが、
 そんなことすら今の彼女は気がつかない。
 ただただ、鬼太郎の発した言葉にカッとなってしまった。
 ネコ娘は衝動のまま動く。
 床に置いてあった猫のぬいぐるみを、鬼太郎に向かって投げつけた。

 

 ――ばふんっ!

 

「うわっ」

「ひゃあ! な、なんじゃなんじゃ?!」

 

 とっさに腕を瞳の前にかざしす。ネコ娘が投げつけたぬいぐるみは、ぽすん、と小さく音をたてて床に落ちた。
 卓袱台の上でシュークリームのカスタードの部分を頬張っていた目玉の親父も、
 かすかに伝わってきた振動に、その小さな身体がぽてんと床に落ちる。
 柔らかい素材のぬいぐるみだったので痛さはさほどない――
 それよりも鬼太郎は、いきなりの幼なじみの行動のほうに呆然となってしまった。
 おそるおそる、だけどできるだけ優しい声色で彼は彼女の名前を呼ぶ。

 

「……ネコ娘?」

 

 けれど時既に遅し。
 ネコ娘はバンっと両手を卓袱台につけると、持ちうる限りの声で叫んだのだった。
 その声はどこか震えていたかもしれない。

 

「鬼太郎のバカッッッ!!」


 そう彼女が叫んだ直後。まるでゲゲゲハウスの中だけ時間が止まったような空気になる。
 外界では空を鳥が飛び、どこかで何かの音が聞こえるのに、鬼太郎の耳には何も聞こえない。
 ただ息をするのを忘れてしまったかのように、
 瞬きひとつせずに鬼太郎は卓袱台を挟んだネコ娘に釘づけになっていた。
 その表情は「一体なにが起こったのかわからない」というようなもので。
 目玉の親父もただ静かに二人を……事の行方を見守るように、床の上から見上げている。
 誰もが動かない。動けなかったのだ。


 一番にそれを、時間を動かしたのは、他でもない。ネコ娘であった。
 滲み始めていた目元をこれ以上見せないかのように、すくりと立ち上がる。
 それに反応したのは鬼太郎だ。「あ……ネ、」 ネコ娘、と呼ぶ間もなく先に唇を開いたのは彼女。

 

「――ごめんね、あたし、帰る!」

 

 それだけを残してネコ娘は、とたとたと床を鳴らしながら入り口に――外へとその小さな姿を消した。
 ……ぱさり。
 彼女が上げていった簾が元に戻る。その音すらも何故だか悲しいものに聞こえたような気がした。

 

 

 

 ふわり

 

 ネコ娘は見つめていた足元に何かが落ちたのに気がついて、思考が戻る。
 聞こえてくるのは先程と同じ夜のざわめき――だったが、ひとつ違った。
 周りに居る人々が声をあげ、空を見上げる。

 

「ねえ、これって雪じゃない?」

「ほんとだー」

 

 ……え、雪?

 

 女性の高い声に、ネコ娘もつられるように空を見れば、ちらちらと舞い落ちてくる白いもの。
 手のひらをそっとかざせば、それは手のひらの上にも落ちてきて一瞬のうちに溶けていく。
 確かにこれは雪だわ、と思うと同時に、いつもより冷え込んだ理由がわかった。
 周りで様々な反応が起こる中、同じように空を見上げていても、紙吹雪のような雪の中、浮かぶのは、彼。

 

 ――――きたろ……

 

 ネコ娘の小さな呟きは、降り落ちる雪と暗闇に混じって、誰に気づかれることなく溶けていった。

 

 

 

 


 しゅんしゅんしゅん。
 パチパチと燃える火で沸かしたやかんの口から零れる水は、かすれた音をたてながら湯気をあげる。
 鬼太郎は楽しそうに風呂の用意をする父に微笑みながら、それを茶碗に注いでいく。

 

「用意ができましたよ、父さん」

「おお、気持ちよさそうじゃのう」

 

 裸になって身を浸した父を確認して、鬼太郎は壁に背をついた。

 

「いやいや、極楽だのうー」

 

 よっぽと心地よいのか、鼻歌を歌い出した父に苦笑する鬼太郎だったが、心の中には今日もまた彼女が浮かぶ。
 もうあれから結構経ってしまった―――。
 鬼太郎もまた、あの日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 あのすぐ後、男二人が残された中。
 穏やかに、そして語りかけるように、そっと父が息子に言葉をかけた。

 

「……鬼太郎や」

「……はい」

「父のわしが言うのもなんじゃが、おまえは口数が少ない子じゃ。それでいて肝心なところで、余計にわかりニくい」

 

 咎めではない。
 息子もきっと自覚しているであろうことを、改めて言葉で表してみる。
 目玉の親父はぴょん、と飛び乗った卓袱台の上から、更に自分より大きな鬼太郎を見上げてみる。
 その顔は神妙で――ちゃんと自覚しているのだとわかるものだった。
 自分より姿形は遥かに大きな息子だが、やはり父の自分からしてみればまだまだのようだ。
 それが愛おしく嬉しいと思ってしまうのは、自分もまた息子離れができてないからであろう。
 そんなことを考えて優しい顔になる目玉の親父はいつも何よりも自分を優先し、
 敬愛してくれる息子に、続きの言葉をかける。

 

「それが悪いというわけではない。
 ……だがのう、時として言葉にしてみるのもまた必要であり、良いものじゃ」

「言葉に……」

「そうじゃ」

 

 息子にとってあの娘(むすめ)が大切なのは間違いないだろう。
 幼なじみであるネコ娘。
 自分とも、横丁や他の仲間の洋楽ともまた違う存在にあることは確かだ。
 ――ただ、ネコ娘の息子に対する「好き」と同じ「好き」という気持ちを、
 この鬼太郎の中にあるかどうかは――たとえこの父といえど知るところではない。
 それだけは。
 心というものだけは、自分だけが知ることのできる物で、場所なのだ。

 

「父さん」

「うん?」

「僕にとって………ネコ娘は確かに他の皆(みんな)と違う娘だと、思います」

「そうか」

「……はい」

 

 どこか苦しそうな無表情に近かった鬼太郎の顔と声が、
 少しだけ優しいものへと変わったのを、見逃さなかった。
 目玉の親父はそれ以上の何かを言うことなく、再び菓子にありつきながら、最後に一言贈った。

 

「ちゃんとネコ娘と仲直りするのじゃぞ、鬼太郎や。
 しかし、今はそっとしておいたほうがよいのかもしれん」

「……今回は激しかったですからね、彼女……」

 

 鬼太郎は苦笑を漏らしながら、目にとまったものを拾いあげた。
 ネコ娘が自分に投げつけてきた猫のぬいぐるみ。
 その彼女と似た愛らしい瞳が、鬼太郎を見つめる。
 鬼太郎はくすりと笑うと、つんと猫の頬辺りを突いた。

 

「おまえのご主人様に、どうやって謝ろうか」

 

 猫は何も答えない。

 

 

 

 鬼太郎は彼女がそのまま置いていったネコのぬいぐるを、
 俯きながら見つめていたが、父の言葉に顔をあげた。

 

「ん?――おお、鬼太郎や。雪じゃ」

「雪、ですか?」

 

 鬼太郎はほんの少し驚いて、窓辺に寄ると、そこから空を見上げた。
 外はもう夜だから暗くなにも見えない。
 それは空も同じはずだなのだが、今日は違った。
 ゲゲゲハウスから零れる光のおかげか、確かに空から舞い落ちる雪が見えたのだ。
 それは音もなく、ゆったりとした一定のリズムを奏でている。
 いつのまにか茶碗風呂から出て自分の隣に並ぶ父が、
 「またこれから、一段と寒くなるのう」と呟いたのを聞いて、
 「そうですね」と相づちを打つ。


 ――ネコ娘は寒くないだろうか――


 あれから何度か視謝りに行った鬼太郎だったが、その彼女がずっとバイトで会うことはできなかった。
 ネコ娘もまた、あれからここに来ることはなくて。
 ここ数日は、妖怪ポストにも手紙が届くことがなく、鬼太郎の周りはいつになく静かなものだった。
 今日もネコ娘はバイトなのだろう―――もう、帰っただろうか?
 彼女はネコ妖怪だから寒さに弱い。
 いつになく彼女が気になってしまう。
 いや、ネコ娘に会いたいな………と心から思う。

 

 ……仲直りを

 僕達はちゃんと、できるだろうか。

 


 雪は一晩中、やむことなく降り続いた。

 

 ネコ娘はパジャマの上にカーディガンを羽織ると窓際まで歩いていって、窓を押し開けた。
 ――とたん、目の前に飛び混んできた光景に目を奪われてしまう。
 時刻は朝なのだから明るいのはあたり前なのだけれど、それはいつもよりも、もっともっと明るいものだ。
 広がる一面が、何も描かれていないキャンバスのように真っ白い。
 庭に植えられた木の枝にも、まるでケーキの生クリームのように、雪がのっている。
 そして、その雪に朝日があたって、キラキラと宝石のように輝やいていた。
 昨日までと同じ場所だというのが信じられない。

 

「きれー………」

 

 ネコ娘はほわん、と突如模様替えした雪の世界に、うっとりと見いってしまったが、
 やはり雪が降るくらいなのだから、寒さもまた厳しいものだった。
 ぶるりと生理的に身体が震えた。
 ネコ娘は慌てて窓を閉める。
 雪景色は綺麗だけど、やっぱり薄着じゃだめみたいだ。
 自分はネコ妖怪だ。
 寒さにはひどく苦手なのは自覚しているがこんな素敵なことを楽しまず、
 部屋に閉じ籠もっているなんてもったいないではないか。
 そうと決まれば――行動あるのみだ。
 ネコ娘は暖かい服の用意を始めたのだった。

 

 

 いつもの見慣れたこの横丁も、ほんの少し変わるだけで別の街に見える。

 いつも買い物に歩く道も、店の屋根や入り口にも雪が降りかかっている。
 それを仲間達は、雪かきのスコップや自身の持ちうる術で除けたりと、忙しそうだ。
 ネコ娘は出会う仲間に朝の挨拶をしながら長屋を目指す。
「やあ、ネコ娘。君は朝から元気だねえ」
「寒いだろう。うちでゆっくりしてればいいのに」
 そんな声をかけられたが、発する本人達もまた、どこか浮かれている気がするのは、彼女の気のせいだろうか。 
 ネコ娘は何だか可笑しくて、その口元は穏やかな弧を描く。
 ――やがて目的の場所が見えてきて、彼女は足取りも軽やかに歩いていった。

 

     ●●●

 


「あら、ネコちゃん」

「おはよっ ろくちゃん、アマビエ」

 

 妖怪長屋の前にいたのはアマビエとろくろ首だった。
 アマビエは耳あてを、ろくろ首は綺麗な色のマフラーを巻いている。
 そのろくろ首が、ネコ娘にむかって弾んだ声で教えてくれた。
 ふふふ。
 それは心から嬉しそうな微笑で。

 

「このマフラーね 鶯尾さんから貰ったの」

 

 マフラーに鼻先まで埋めながら頬を染つつ、その時のことを思い出して、うっとりと浸るろくろ首。
 そんな彼女の横からアマビエがやれやれ、と頭(かぶり)を降る。
「さっきから、ずうっとこんなんなんだよ。何とかしなよ、ネコ娘」
「だってだって」
 目の前で掛け合う二人を前に、ネコ娘は長い息をついた。
 ……なんていうか、いつも以上にろくちゃんが羨ましい。

 

「いいなあー……ろくちゃん。ほんとに幸せそうだよねえ」

「ネコ娘だって、鬼太郎にお願いして、何か貰えばいいじゃないのかい?」

「やだ、アマビエったら。あの鬼太郎よ? ねえ、ネコちゃん―――って、あら?」

「どうしたのさ?」

 

 鬼太郎……


 そう小さく呟きながら黙りになってしまった友人に、
 ろくろ首とアマビエは、はかったようなタイミングで不思議そうに顔を見合わせた。
 何かあったのか?
 明らかに何か落ち込んでしまったネコ娘に問えば、返ってきたのはたった一言。
 けれど、互いの恋話もできてしまう友人達が理解するのには、十分なものだった―――。

 


     ●●●

 

 

 ゲゲゲの森にネコ娘は来ていた――といっても鬼太郎のところではなくて。
 違う。本当は先ほど別れた友人達に後押しされて、覚悟を決めて彼に謝りに行こうとしたのだ。
 だけどやっぱり途中で足が止まってしまった。つくづく自分は能力だけでなく、心まで弱いのだろうか。
 はあ、とひとつ溜息をつきながらもネコ娘は森の中の開けた場所に足を踏み入れる。
 誰の足跡もまだついていない、真新しい雪の絨毯を踏みしめる。


 むぎゅ むぎゅ


 何ともいいがたい音が耳をくすぐる。
 やがてその中央辺りにやってくると、ネコ娘はその場にしゃがみこんだ。
 お婆に貸してもらった厚めの手袋にぎゅうっと雪をかき集めると、ネコ娘はその雪で遊び始めた。

 

「何、作ろーかな」

 

 ネコ娘は雪を弄んでいるうちに、自然と気持ちが浮上して、楽しくなる。
 そういえば。
 忘れていたけど、自分は元々この自然がもたらした贈り物を楽しもうと、
 暖かい部屋ではなくこの寒い外を選んで出てきたんだよね。
 なら今はただ楽しんでもいいんじゃないかな。
 そう思えると、ネコ娘は雪遊びに没頭していった。


 だから気づけなかった。
 彼女の背後から迫りくる気配に―――。

 


     ●●●

 

 

 鬼太郎は寒さのせいか、珍しく朝早く目覚めていた。
 それと同じくして父も床から出て、今は朝風呂を楽しんでいるのだが、今日はいつもと違っている。
 目玉の親父が雪見風呂を堪能したい、と息子に言ったので、
 考えた方法が簾をあげて、そこから雪景色を楽しむというものだった。
 一面の絶景を茶碗風呂から楽しむ父の傍で、鬼太郎は後方に手をつきつつ、胡座をかく。
 しばし同じように雪景色を眺めていた鬼太郎だったが、ふと懐かしい記憶が彼の中に蘇ってきた。

 

 ……そういえば 昔、ネコ娘と雪うさぎを作ったんだっけ……

 

 それはまだ本当に自分達が幼かった頃のこと。
 今よりもたくさんの雪が降って、僕と彼女はこのゲゲゲハウスの前で遊んでいた――
 今では僕が面倒くさがって、ごく稀になってしまったけれど。
 鬼太郎はひとり苦笑して。
 さらにその先を辿ってみようとしたが―――それは出来なかった。
 いや邪魔されたというべきだろうか。


「!!」

「ん?どうしたのじゃ、鬼太郎」

「――すみません、父さん。ちょっと出かけてきます!」

「あ、おいっ……鬼太郎!」

 

 いきなりすくりと立ち上がって駆け下りていく尋常ではない様子の息子に、
 目玉の親父が声をかけるも、鬼太郎には既に届いてはいなかった。
 息子は「ちょっと出かけてくる」と言ったということは、きっと彼一人で大丈夫だということだろう。
 目玉の親父は息子が無事に帰ってくるのを、待つことにしたのだった。

 

 

 鬼太郎は駆けていた。
 ただいつもより若干そのスピードは遅い。
 それは地面を覆う雪のせいだ。
 剥きだしの足を乗せた下駄に、うまくバランスを取りながら走る。
 ――さっき。
 確かに妖気を感じた。
 それはごく弱いものだったので特にいつもなら見逃す程度であっただろう。
 だけど。


 ……ネコ娘の妖気も感じた?


 僅かだが彼女の妖気も混じって感じたのだ。
 もしそれが本当にネコ娘のものだとすれば、彼女は今この森にいるのだろうか。
 ネコ娘の力はちゃんとわかっている。
 信じているのはもちろんだが――彼女が危険なのだとわかれば、自分は迷わずにかけつける。
 僕にとってはあたり前のことだった。
 それが例え彼女に嫌われようとも。
 喧嘩をしている時にでも。


「っ……ネコ娘!」

 

「あたしの馬鹿……っ! どうして気づかなかったのよ……?」

 

 ネコ娘は「それ」を前にジリジリと後ずさっていた。
 目の前の妖怪――白く巨大なそれは、のそりと間合いを詰めてくる。
 どうしよう……ネコ娘は答えを導きながらも、何度目かわからない叱咤を自身にした。
 目の前の雪に夢中になりすぎていて気づくのが遅すぎた。
 気がついたのは、この妖怪の爪が身体をかする直前だ。
 それからのネコ娘は攻撃をかわすので精一杯が現状だった。
 爪でひっかけたとしても、その身体はたちまちに元に戻ってしまう。
 とにかく今はただただ、かわすことしか出来なくて――。
 今もまたギリギリのところで飛んでかわすことができたのだが―――

 

「にゃっ?!」

 

 飛んだ空中の最中、ネコ娘は手の中にあったものが不意の風によって、
 雪の上に落ちそうになったのに気づくと、慌ててそれに手を伸ばして、何とか落下は免れた。
 と同時に彼女自身もいったん雪の上に足をつけたのだが―――
 その直後に前方から妖怪が襲いかかろうとしていた。
 ネコ娘はとっさに瞳を固く閉ざした。


 ―― 鬼太郎 !

 


「ネコ娘!!」

 

 見えない視界の中、耳に届いたその声は、他でもない。
 ――鬼太郎のものだった。
 それを心が理解するよりも先に、ふわりと自身の身体が浮いたのを、ネコ娘は感じた。
 ゆっくりと瞼をあげれば、目の前には鬼太郎の真剣な瞳があった。
 どうやら鬼太郎が危機一髪で、抱き上げて飛んでくれたみたいだ。
 再び、彼がとんっと地面を蹴ったのがわかった。

 

「きたろー………?」

「……大丈夫かい? ネコ娘」

 

 風が二人の髪を揺らす。
 ネコ娘は、久しぶりに見た大好きな彼にゆるゆると身体から力が抜けていくのを、感じとった。
 熱いものが自然と瞼の奧に混みあげてくる。
 鬼太郎、ともっと名前を呼びたかったが、状況がそれを許さない。
 鬼太郎は安全な場所にネコ娘をそっと下ろすと、安心させるように微笑みかけた。

 

「後は僕にまかせて」

「…鬼太郎っ……」

「大丈夫」


 鬼太郎は最後にもう一度だけ、この大切な幼なじみに微笑みかけると背を向けた。
 その姿は、ネコ娘が久しぶりに見た何にも負けることがない、鬼太郎の姿だった。

 


     ●●●

 

「ネコ娘。どこも怪我はないかい?」

「――うん」

「よかった……立てる?」

 

 全てが終わるのに時間はかからなかった。
 鬼太郎は妖怪が消滅するのを見届けると、いつもの彼に戻ってネコ娘の傍まで戻ってきてくれた。
 膝をついて彼女の無事を確認すると、鬼太郎は立ち上がる。
 そうしてネコ娘に手をかした。
 ……君が無事で本当によかった……。
 鬼太郎は心の奥底から安堵の思いがこみ上げる。
 ほっとしたのも束の間――鬼太郎はネコ娘の傍に置かれたものに目を奪われた。

 

「ねえ、ネコ娘。それ……」

「え?―― あっ、これは」

 

 ネコ娘が恥ずかしそうに手に乗せたのは、雪で作った“雪うさぎ”だった。
 ……まさかここに来るまでの間に思い出していたそれを、目の前に佇む彼女が作っていたなんて。
 鬼太郎はくすりと笑った。
 そんな彼にネコ娘は首を傾げてみせる。
 どうしたの、と尋ねれば鬼太郎は懐かしむように言葉を紡いだのだった。

 

「昔――僕達がまだ幼かった頃にも、作ったことあるよね」

「え?」

「そうだ。確か、その時も君と喧嘩をしてしまったんだ」

「あ………!」

 

 遠き昔の思い出が、鮮やかに鬼太郎とネコ娘の中に蘇っていく。
 そうだ。
 あの時も。

 


     ●●●

 


『やだあ!うさぎさんもお家に一緒に入るの!』

『だからね、ネコ娘。うさぎは一緒には入れないよ。溶けてしまうだろう?』

『そんなことないもんっ』

 

 ぶんぶんぶんっ


 鬼太郎は自分の目の前でもう何度目か、その小さな頭を振る少女を前に、困りはてていた。
 しんしんと雪が降る中で、少女――ネコ娘が頭を振る度に揺れる、
 髪に結ばれた真紅の大きなリボンだけが、やけに鮮やかに映える。
 鬼太郎はどうしたものか……と言葉なく立ち竦んでしまっていたが、
 やがて聞こえてきた声に縋るように視線をやった。

 

『どうしたのじゃ、二人とも?』

『父さん!………ネコ娘が、雪うさぎを家に持って入るって言うんです。
 それは溶けてしまうから、だめだよって教えてるんですが』

『ほう――雪うさぎとな』

 

 ゲゲゲハウスの簾から出てきたのは鬼太郎の父だった。

 目玉の親父は、ぴょんと飛んで鬼太郎――ではなく今日はその彼の幼なじみの少女の肩に飛び乗る。
 そっとネコ娘の小さな手の上を覗き込めば、確かに可愛らしい雪うさぎが乗っているではないか。

 

『上手いものではないか、ネコ娘』

『ほんと!?』

『わしは嘘はつかまいて……じゃがのう、ネコ娘や。
 鬼太郎の言う通り、こ奴を家に入れれば、死んでしまうんじゃ』

『……死んじゃうの?』

 

 ネコ娘は幼なじみの彼の父親の言葉に、眉をこれでもかというくらいに悲しそうに寄せて、
 手の中にある雪うさぎに視線をやった。
 その大きなアーモンド型の瞳は今にも零れ落ちてしまいそうだ、と思うくらに揺れている。
 そんなネコ娘を間近で見ている目玉の親父は、
 その滑らかな頬を優しくさすってやって――慰めるように言葉をかけた。

 

『こ奴が幸せでいられる場所に、お主が置いてやればよい』

『……うん』

 

 こくり。
 ネコ娘は頷いた――のだが

 

『きたろっ あたし、うさぎさんにつけてあげるリボンを取ってくるから、持っててくれる?』

『いいよ』

『ありがとうっ! ぜえったい、落としちゃだめよう!』

『うん』

 


 確かに約束した。
 したけれど。
 それは守られることはなかったのだった。

 


     ●●●

 


「――あの後、君が戻ってきた時にはもう、あの雪うさぎは落ちてしまってたんだよね」

「うん。でも、あれだって鬼太郎のせいじゃなかったじゃない」

 

 約束した後。ネコ娘が戻れば、雪うさぎは雪の上に落ちてしまっていたのだ。
 雪と混じり合った身体。
 その雪の上に残った緑の葉と赤い南天の実。
 それらを見つめていた鬼太郎だったが、
 ふと視線を感じて顔をあげると、そこには悲痛な顔色のネコ娘がいた。
 彼女の瞳の縁には、じわりと涙が浮かんでいて―――。
 あ――と鬼太郎が口を開く前に、
 ネコ娘は両拳をぎゅううっと握りながら今回と同じようなことを、彼に言った。

 ――きたろうなんて、だいっきらい!――と

 けれど真実は違った。
 あの時の全ての元凶はあの男……ネズミ男だ。
 ネコ娘が走っていったのと入れ替わるように、鬼太郎の元にやってきた。
 目的は今と変わらないたかりだ。
 その時に不意打ちで鬼太郎の背中をバシバシと叩いてしまい――
 雪うさぎは鬼太郎の手の中から落ちてしまったのだった。
 鬼太郎は何ひとつ悪くなんてなかったのに。

 

「ほんっっと!昔からネズミ男はろくな事しないわよね」

「はは……でもまあ、あいつも悪気があったわけじゃなかったみたいだし。
 それにやっぱり落ちるのを防げなかった僕にも非はあったよ」

「んもうっ だから、鬼太郎は悪くなかったんだからね」

 

 小さく唇を尖らせて俯き加減になってしまいそうになるネコ娘に、
 鬼太郎は声なく笑って、ゆっくりと歩きだした。
 え。どこにいくの、とそれに気がついた彼女は顔をあげる。
 鬼太郎は迷うことなく歩いていくと
「うん。ここなら大丈夫そうだ」
 と一人ごちて、その場にしゃがみこんだ。
 そんな鬼太郎の行動を、首を傾げながら見守っていたネコ娘だったけれど、
 さくさくと彼の傍まで歩いていく。

 

「鬼太郎、どうしたの?」

「僕も作ろうかなって思ってね」

「え?」

 

 何を?
 ますます訳がわからないネコ娘は、鬼太郎の隣に同じように膝を折った。
 視線をやれば鬼太郎の何もはめていない手は、雪を掻き集めている。
「きたろー」
「……うん?」
「何を作ってるの?」
 鈴を転がすようなあまい声が鬼太郎の耳元に響く。
 鬼太郎はつりあがった、けれども愛らしい瞳を瞬かせるネコ娘に一度だけ微笑みを向けて。

 

「雪うさぎだよ」

「え?――鬼太郎、が?」

「うん」

「どうして?」

「君にあげようと思ってね」

「へあ?」

 

 ……あたしに? 鬼太郎が?……

 

「いらなかったかい?」

「そ、そ、そんなことないっ!!」

 

 ぶんぶんっ!
 頬を蒸気させながら、頭(かぶり)をふる幼なじみ。
 鬼太郎はそんなネコ娘を可愛いと思った。
 本当に――揺れるリボンも、紅色の頬も、どこか潤んだような瞳も。すべて。
 鬼太郎の心を痺れさす。
 そんな男心を知らないネコ娘もまた、嬉しさから心臓が落ちつかなかった。
 それと、今なら――。

 ……今なら言えるだろうか?

 ネコ娘は、どこか楽しそうに雪うさぎを造る鬼太郎を一瞥して、膝を抱えながら声を絞り出す。

 

「鬼太郎」

「ん?」

「…………ごめんね」

「………何に? 昔のこと?」

「にゃっ?!」

 

 いつかどこかで似たようなやりとりをした気がするのはネコ娘だけだろうか。
 きょとんとした表情の鬼太郎に、ネコ娘は違う意味で頬を染めて、拳を作って鬼太郎の腕をく。
 相変わらずの彼。
 また、それがわざとなのかわからないからよけいに質が悪いのだ。

 

「もうっ 鬼太郎ったらっ! 絶対、あたしが言いたいこと わかってるくせに!」

「なんだい? 言いたいことって」

「き、た、ろー?」

 

 ぽかぽかと叩くネコ娘に、鬼太郎はただ可笑しそうに笑う。
「もうっもうっ」と頬を風船のように膨らませて怒ってくる彼女に、
 鬼太郎は「ネコ娘」とその手をやんわりと手にとる。
 鬼太郎にすれば無意識のことなのだが、ネコ娘にとっては心臓が鳴るには十分で。
 ほんの少しだけ、上擦ったような声で彼を呼んだ。

 

「きっ、鬼太郎?」

「僕のほうこそ――ごめん」

「……」

 

 ふっと破顔していた鬼太郎の顔は真剣で、けれど慈愛に満ちたようなもの。
 ネコ娘はただ唇を閉ざして、続きを聞くことしかできなかった。
 いや聞きたかったのだ。
 鬼太郎は自分を揺れる瞳で見つめるネコ娘にこれ以上ないくらい、優しい声で語る。
 伝わってほしい。
 僕にとって君は特別だということを。

 

「君は僕の大切な人だよ」

「……あたしが?」

「うん。君は、ネコ娘は僕にとって唯一の幼なじみで、仲間で、友達で」

「と――」

「でもね。きっと………それだけじゃないんだ」

 

 友達。
 その言葉に胸が締めつけられるように苦しくなったネコ娘が、
 おもわず呟きそうになったけれど、
 まるで“それ以上言う必要はないよ”と言うように、鬼太郎は言葉を続けた。
 鬼太郎の発言に、ネコ娘の瞳は大きく見開いたと同時に、頬はほんのりと色づいていく。
 それを見て鬼太郎の心はどこか満たされる。

 ――彼女に……ネコ娘にこんな顔をさせれるのは、自分でいたい。僕だけがいい、と――

 鬼太郎はネコ娘の手を離してゆっくりと立ち上がる。
 「――あ」 どこか名残惜しそうなネコ娘の声にはやる鼓動を抑えつつ、彼女を見下ろした。


「うさぎにつける瞳の南天を、取りにいかなくちゃね」

 

 彼女とこうやって自然に話せたのは、きっと「雪うさぎ」のおかげだ。
 きっかけを鬼太郎に与えてくれたもの。遠き昔の懐かしい思い出とともに、この優しい時間をくれた。
 そんな雪うさぎを綺麗に造ってあげたいと鬼太郎は思ったのだ。
「一緒に来るかい?」
 そう言って手を差しだせば、ネコ娘はふわりと微笑んで、手を伸ばした。
 鬼太郎はその手を掴んで、彼女を立ち上がらせようとしたのだけど、
 ネコ娘が足元の雪に自らのそれをとられてしまって――――

 

「……きゃっ!」

「ネコ娘!」

 

 

 

 


 鬼太郎もネコ娘も初めて味わう温もりを感じた。

 

 きっとほんのわずかな。
 永遠という時のなかでは、きっと見えもしないような。
 だけど二人の吐息は確かに重なりあった。
 違う、今もなお。
 その時より少し離れた互いの半開きになっている唇が、
 触れるか触れないかというくらいの距離にある。
 きっとあと少し、どちらかが顔を寄せれば、いとも簡単に重なってしまうだろう。
 先に反応したのは鬼太郎だった。

 

「ネ、ネコ娘! ご、ごごごごめんっ!!」

「う、うううう、ううん!」

「………」

「………」

 

 何をやってるんだろう――自分達は。
 ネコ娘は鼻の奧がツンとなった。
 生理的なものが込み上げてくるのを、必死に耐える。
 それは悲しいからだとか、嫌だからではもちろんない。
 その逆でしかない。
 不意の事故でも、たったあの一瞬で泣きたくなるくらいに、幸せだと、そう思った。
 今までも彼に対して好きだと思ってきたけれど、
 これほどまでに鬼太郎を愛おしいと思ったことはあっただろうか。
 自分を今だ見下ろす鬼太郎の頬は紅い。
 他の誰でもない――自分がそれをさせている。
 どうしようもないくらいに、この男(ヒト)が好きなのだと、ネコ娘は思った。

 

「……きたろう」

「ネコ娘?」

「あのね 鬼太郎。もうひとつ、昔のことで訂正させて」

「え………」


 ゆるゆるとネコ娘の腕が持ち上がって、
 いつの間にか脱げていた手袋がはめられていた手で、鬼太郎の頬に触れた。
 あたたかいネコ娘の指に、鬼太郎の心臓はとくりと鳴る。
 けれど、さらにその先の彼女の言葉に鬼太郎はひとつしかないどんぐり眼を、見開いた。

 

「大嫌いだなんて、嘘だからね。
 あたしは鬼太郎を嫌いになんてなれないんだもん。
 どうしたって、鬼太郎じゃなきゃだめなの」

「……っ」

 

 今までにない、ネコ娘のはっきりとした言葉に、鬼太郎は何も言えない。
 ただただ、心臓が煩くなってくらりと目眩がしそうになってしまう。
 自分が組み敷いたままの形の下、嬉しそうに笑う彼女に、愛しさが溢れそうになる。
 雪の布団の上に無造作に散らばる林檎色の髪も、
 彼女を可愛く見せる桜色のリボンも、
 見上げてくる黄金色の瞳も、
 この雪と同じくらい白い頬も、すべてに。

 ――触れたくなった

 

「………僕も」

 

 そっと一度離した身体を屈めて。
 そっと額を彼女のそれに寄せて。
 そうすれば鬼太郎の亜麻色の髪とネコ娘の明るい髪が混ざりあう。
 それがくすぐったいのか、ほんの少し身をよじったネコ娘の姿に、
 鬼太郎の理性はどこかへ消えてしまった。
 だから。


 彼女にだけ聞こえるような声でそれを囁けば、
 その瞳が今までで一番大きく揺れたのを、鬼太郎は見つけた。


     - f i n. -

 

 

めいこさんの運営されるケータイサイト「ここにいるよ」との相互リンク記念に、

「不可抗力でキス」というリクエストをお願いしたところ、

こんなにもステキなお話を書いてくださいました!!!

うお~!萌え~~~!!(≧▽≦)

なんとも柔らかい雰囲気に、ポワ~ンとしてしまします(*´∀`人)

こんなステキなお話を書いていただけて、あたしゃ幸せ者です!!

めいこさん、どうもありがとうございました!!

そしてこれから末永く、よろしくお願いいたします!^^

 

 

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