恋の病

「鬼太郎の・・・バカ・・・。」

妖怪長屋の一室。
苦し気な呼吸で布団に横たわったまま呟いたのはネコ娘。
「どうせあたしとの約束なんてどうでもいいんだわ・・・。」
そう口に出せば自然と目尻から涙が落ちる。


事の起こりは2日前。

鬼太郎と映画の約束をしていたネコ娘は、買ったばかりのワンピースで待ち合わ
せ場所に立っていた。
天気もよく、久しぶりの二人きりの時間。
それだけでネコ娘はウキウキしていた。
しかし、待ち合わせの時間を1時間過ぎても鬼太郎は現れない。
寝坊でもしたのだろうかと携帯電話を取り出す。
「あ、もしもしおやじさん?鬼太郎は?」
「おぉ、ネコ娘か。鬼太郎ならねずみ男と出掛けたようじゃぞ?なんでも明日の
夜まで帰らんそうじゃが・・・。」
「なんですってぇぇぇ~~~~~!!??」
「ネコ娘?どうかし・・・」
ブチッ
目玉おやじの声に耳を貸すこともなく、ネコ娘は電話を切った。
「・・・またあたしとの約束を忘れたのね・・・。」
俯き呟く声は震え、携帯を握る手には力がこめられる。
その時、ワナワナと震える肩にポツリと雨粒が落ちてきた。
反射的に空を見上げれば、次第に雨粒の数が増してくる。
「嘘!今日は一日晴れのはずなのに!!」
そんなふうに嘆いていると、雨は見る間にどしゃ降りになってきた。
「やだぁ~!買ったばかりのワンピースなのに~!!」
あまりに突然の雨に怒りさえ忘れ、とにかく雨宿りできそうな場所を探しながら走った。
少しすると屋根付きのバスの停留所に辿り着いた。
「はぁ・・・、ちょっとここで雨宿りしよう。」
濡れた服をハンカチで拭きながら、一つため息をつく。
「つくづくあたしって、鬼太郎にとってどうでもいい存在なのね・・・はは・・・。」
なんだか虚しくなると無駄な笑いまでこみ上げてくる。
鬼太郎は自分の気持ちに気付いているはずなのに。
迷惑ならばそう言ってほしい。
だが、彼は優しい。
もし本当にそう思っていたとしても、口に出して言うはずがない。
だからこうして態度で表しているのかもしれない。
「迷惑・・・なのかな・・・。」
そうぽつりと呟くと、激しかった雨の音が止んだ。
見上げれば空は元の明るさを取り戻しつつある。
「通り雨だったのね。・・・帰ろ・・・。」
そう一人呟き歩き出す。
とぼとぼと重い足取りで歩いていると、晴れた空とは裏腹に思考はどんどん暗くなっていく。
「あたしって、鬼太郎にとっては必要じゃないのかも・・・。」
その時、後方から車が走ってきたと思ったら、追い越しざまにバシャッという音を立てていった。
「きゃっ!!」
車の撥ねた水は、見事にネコ娘の頭から浴びせられた。
しかし車は止まることなく、その姿はもう小さくなってしまった。
「・・・。」
雨に濡れた上、車に浴びせられた泥水のせいで新品のワンピースは見るも無惨にドロドロだった。
「うっ・・・。」
汚れたワンピースがまるで自分の心のようだと思う。
妙に惨めな気持ちになると自然と泣けてくる。
溢れそうになる涙をぐっと堪えながら、ネコ娘は横丁へと続く路地を歩いた。


「ネコ娘!どうしたんだい!?その恰好・・・・。」
長屋の前で吃驚して声を掛けてきたのはアマビエだった。
その声を聞きつけて、奥からろくろ首も顔を覗かせる。
「やだ!ネコちゃん、ビショビショじゃない!!」
「あはは・・・・、なんか今日のあたし、ツイてないみたい。」
ネコ娘はそう言って力なく笑った。
そして、着替えてくると言い残しその場を去った。
残されたアマビエとろくろ首は不思議そうに顔を見合わせた。

水を吸って重たくなったワンピースからポタポタと雫を落としながら、
ネコ娘は自宅へとたどり着いた。
鍵を開け中に入り、汚れた服を脱ぐと風呂場へと向かう。
シャーーーー
シャワーを捻れば、始めは冷たい水が少しづつ温かくなる。
丁度いい湯温になったところでシャワーをフックに掛け、
全てを洗い流すように頭から湯を浴びる。
目を閉じれば今日の出来事が甦る。
(あたしは鬼太郎にとって、ただの仲間・・・・なんだ・・・・。)
そう思えばすぐに目頭が熱くなる。

ネコ娘が長屋に現れたのは夕方だった。
どこか力なくフラフラとした足取りでネコ娘が向かってくる。
「あ、ネコちゃん!」
それに気づいたろくろ首が声を掛けた。
「あぁ、ろくちゃん・・・。」
「どうしたの??なんだか元気がないみたいだけど・・・。」
半分閉じている瞼を見て、ろくろ首が心配そうに眉を寄せる。
「うん・・・、なんだか熱っぽくて・・・。
風邪かもしれないから、お婆に・・・薬を・・・・。」
と、そこまで言ってネコ娘はよろめく。
「ネコちゃん!」
慌ててろくろ首がネコ娘の身体を支えると、確かにその身体は熱を持っていた。
「やだ、本当に熱があるみたい。とにかく部屋に行きましょ。」
そう言ってネコ娘の腕を肩に回し階段を上がると、
そこへアマビエが声を掛けてきた。
「ネコ娘、どうかしたのかい?」
「熱があるみたいなの。そこのドア、開けてくれる?」
部屋に入ると一旦ネコ娘を座らせ、布団を敷く。
「ほら、ネコちゃん。」
「ありがと・・・・ろくちゃん・・・。」
少し息が荒くなってきたネコ娘を布団に寝かせる。
「アマビエ、お婆に薬をもらってくれる?」
「わかった!」
普段元気なネコ娘の苦しげな様子に、アマビエも慌てて部屋を出て行った。
「ネコちゃん、今アマビエに薬を頼んだから。」
心配そうに見つめながら、ろくろ首はネコ娘に話しかける。
するとネコ娘が口を開いた。
「・・・あのね、ろくちゃん、お願いがあるの・・・・。」


翌日の夜。
「ただいま戻りました。」
「おぉ、帰ったか鬼太郎。」
「?何かあったんですか?」
やっと帰ってきたと言わんばかりの父に、鬼太郎は不思議そうに尋ねた。
「お前、昨日はネコ娘と約束しとったんじゃないのか?」
「あ・・・・・・・。」
父の一言に見る見る青ざめる鬼太郎。
「まったく・・・・。あの様子じゃきっと怒っておるぞ?」
「・・・・出掛けてきます。」
そう呟いて肩を落とし出て行く息子の背を見つめ、目玉おやじはやれやれと肩を竦めた。


「参ったなぁ・・・・。」
横丁へと向かう道、一人頭を掻きながら溜め息を漏らす。
何日か前までは覚えていたが、いつものごとく甘い恋愛映画ということもあり、
ねずみ男の誘いに二つ返事でOKしてしまった。
男同士のドライブ。
気ままな旅は鬼太郎にとって気が抜ける時間だ。
普段妖怪との戦いに明け暮れている鬼太郎にとってはまさにある種の清涼剤となっていた。
ねずみ男もその辺が分かっているのか、時折息抜きにと誘ってくるのだ。
「はぁ・・・・・。」
怒っているだろうな、などと考えながら重い足取りで横丁へと歩いていく。


「・・・・え?」
ネコ娘の妖気を探れば長屋にいることは明白だった。
その妖気が普段より弱いことが気にはなったが、まずは謝らなくてはと長屋まで来た。
しかし、縁台に座っていたアマビエにネコ娘はいるかと尋ねれば思いもかけない言葉が返ってきた。
「だから!鬼太郎には会いたくないんだってさ!絶対入れるなって言われてるんだよ。」
(そんなに怒ってるのか・・・。)
ネコ娘からのはっきりとした拒絶に戸惑う鬼太郎にアマビエが尋ねる。
「一体ネコ娘に何したんだい?
熱にうなされながら、『あたしなんか鬼太郎には必要ないんだ』って言ってたけど。」
「熱??」
ただ怒って長屋に篭っているのかと思っていた鬼太郎は心底驚く。
「そうだよ。昨日ずぶ濡れになって帰ってきたかと思ったら熱で倒れたんだ。」
「・・・・・・・・。」
自分が約束をすっぽかしたせいでネコ娘は熱を出したのか。
そう思えば右手には自然と力が入り、痛いほどに拳を握っていた。
「とにかく!今は会わせるわけにはいかないよ!」
「・・・・ネコ娘のこと、頼んだよ・・・・。」
アマビエの強い言葉に搾り出すようにそう返すと、鬼太郎は来た道を引き返して行った。
二人の間に何があったのは分からないが、
ネコ娘のあのうわ言を聞けば大体察しがついた。
「まったく、鬼太郎にも困ったもんだね。」
ふぅ、と小さく息を吐き、アマビエは鬼太郎の背中を見つめていた。

「ネコちゃん、具合はどう?」
「うん、昨日よりはいいみたい。」
「お婆の薬が効いてきたみたいね。」
「ありがとう、ろくちゃん。」
「いいのよ。それより、鬼太郎と何かあったの?」
「・・・・・・。」
それまで弱弱しくも笑顔を見せていたネコ娘だったが、
鬼太郎の話に及ぶと急に押し黙ってしまう。
「言いたくなかったら無理に言わなくていいけど、相談ならいつでも聞くから、ね?」
「・・・ごめんね、ありがとう。」
恋する女同士の心遣いに感謝しながら、ネコ娘は申し訳なさそうに微笑んだ。
「じゃあ、ちょっと水替えてくるわね。」
そう言ってろくろ首は、ぬるくなった水の入った桶を持ち部屋を出て行った。


「あ、ろくろ首、ネコ娘は?」
階段を下りてきたろくろ首に気づいたアマビエが振り返り声を掛ける。
「うん、熱は下がってきたみたい。」
「そう・・・・・・。」
「アマビエ?何かあったの?」
「実は今鬼太郎が来て、追い返したんだよ。」
「そうだったの・・・。」
頼まれたとはいえ鬼太郎に少し悪いことをした気がして、アマビエは肩を落とした。
「一体、あの二人に何があったんだろうねぇ?」
「ネコちゃんも何があったかは言いたくないみたいなのよねぇ・・・。」
「どうしたもんかねぇ・・・・。」


長屋を後にした鬼太郎は、一人ゲゲゲの森にいた。
ただ何をするわけでもない。
ぼぅっと歩いているだけ。
(・・・・必要ないなんて・・・・・。)
いつも明るく元気なネコ娘。
鬼太郎が辛いときには懸命に励ましてくれる。
いざ戦いとなればできうる限りのサポートをしてくれている。
ましてや父、目玉おやじにとっては娘も同然。
では自分にとっては?
(・・・・・・・。)
どんなに考えても思考はそこで止まってしまう。
(僕にとってネコ娘は・・・・。)


それから一週間、鬼太郎は毎日長屋へと赴いた。
答えは出ていない。
しかし足は自然と長屋に向いていたのだ。
行ったところで会わせてもらえないのだが、それでも鬼太郎は通い続けた。

そんなある日のこと。
「・・・・これは風邪だけではないかもしれんな・・・・。」
熱は下がってきたものの、未だ顔色も悪く起き上がれないネコ娘を見て、
砂かけ婆がそう呟いた。
「もう一週間もこの状態だなんて・・・・。
お婆、ネコちゃんはなんの病気なの?」
「ふむ・・・・・。」
心配そうなろくろ首が見つめる中、砂かけ婆は何やら考え込んでいた。
「・・・・ろくろ首、ネコ娘が寝込んでから鬼太郎は来たか?」
「えっ、えぇ・・・。でも、ネコちゃんが会いたくないって・・・・。」
「では一度も会っておらんのか?」
少し強い口調に、ろくろ首はコクンと頷いた。
「・・・・そうか。これ以上はワシの薬では効かんじゃろう。」
「それじゃ、ネコちゃんはどうなるの!?」
「ワシの薬は体しか治せん。
今のネコ娘を治せるのは、おそらく鬼太郎だけじゃろう。」
「鬼太郎が・・・・・?」
どういうことかわからず怪訝そうなろくろ首に砂かけ婆はウィンクをする。
「お主も女子。ましてや恋をしておればわかるじゃろう?」
そう言われやっと理解すると、ろくろ首はふふっ、と笑って部屋を出て行った。


階段を下りるとアマビエとかわうそが縁台に座っていた。
「アマビエ。」
「ろくろ首、ネコ娘は?」
「それがね、お婆の薬じゃもう効かないみたいなの。」
「えぇ!?じゃあどうするんだい!?」
「ふふふっ、ちょっと耳貸して。」
慌てるアマビエに笑いかけると、耳元で何やら話し始めた。
「なんだぁ???」
何がなんだかわからないかわうそは一人キョトン顔だった。
「なるほどね!」
耳打ちされて事情を把握したアマビエは嬉しそうにそう声をあげた。
「じゃあ、早速行きましょ。」
「オッケ~!」
「おいおい、置いてけぼりかよぉ。」
「男のアンタにはわかんないんだから!」
「は、はぁ・・・・。」
ますますワケがわからないという顔のカワウソを残し、
ろくろ首とアマビエは去っていった。

「でも、ネコ娘は会いたくないんだろう?連れて行ってホントに大丈夫なのかい?」
「ネコちゃんが本気で鬼太郎に会いたくないわけないじゃない!
『あたしなんて鬼太郎には必要ない』って言ってたでしょ?
我慢してるだけなのよ!」
「乙女心は複雑だねぇ~。」
そんな会話を交わしながら二人が向かったのは、もちろん鬼太郎の家だった。

「ヤッホ~!鬼太郎~!!」
莚を捲ると同時に、アマビエの威勢のいい声が飛び込んできた。
「お邪魔しま~す。」
ろくろ首もアマビエに続き中に入る。
が、
「・・・・やぁ・・・。」
聞こえてきたのは寝転がって顔だけこちらに向けた鬼太郎の力ない声だった。
「・・・鬼太郎、どうしちゃったんだい・・・・?」
普段からダラダラしてはいるが、今日の鬼太郎は覇気の欠片もなかった。
その変わり様にアマビエもろくろ首も驚いた。
「別に・・・どうもしないさ・・・・。」
「どうもしないって、アンタ・・・・。」
不思議がるアマビエとは違い、鬼太郎の様子にろくろ首はピンと来た。
(なんだかんだ言って、鬼太郎もネコちゃんのことが気になって仕方ないのね。)
「ところでどうしたんじゃ?二人で訪ねてくるとは珍しいのぅ。」
明らかに落ち込んでいる鬼太郎とは対照的に、目玉おやじはいつも通りお気に入りの風呂に浸かっていた。
「鬼太郎を迎えにきたの。」
「・・・・僕を?」
「ネコ娘、まだよくならないんだよ。しかももうお婆の薬も効かないんだ。」
『ネコ娘』という言葉に鬼太郎の耳がぴくりと反応する。
「薬が効かないって・・・じゃあ、ネコ娘は・・・・。」
「だ・か・ら、鬼太郎じゃないと治せないのよ!」
ゆっくりと起き上がる鬼太郎に、ろくろ首がそう告げる。
「僕が・・・・でも、ネコ娘は僕に・・・会いたくないんじゃ・・・・。」
「んもう!これだから男ってのは!そんなのやせ我慢に決まってるだろう!?」
自分もさっきろくろ首に説明されて理解したのだが、
今度は得意気に腕を組みながら言い放つ。
「とにかく!鬼太郎がこないとネコちゃんはよくならないの!」
「・・・・わかった。」
行ってどうしろと言うのか、
そして自分の気持ちにもまだ答えが出ていないのになんと声を掛けたらいいのか、
鬼太郎は未だ悩んでいた。
しかし、しばらく顔を見ていない幼馴染を思うと自然と身体が動いていた。


鬼太郎を連れ長屋まで戻ってくると、ろくろ首が口を開く。
「いい?ネコちゃんが元気になるかどうかは鬼太郎にかかってるんだからね。」
「う・・・うん・・・。」
「女の子は優しく扱う!それが男ってもんだろ?」
「わ・・・分かってるよ・・・。」
二人に責められ居たたまれなくなった鬼太郎は、静かに階段を上る。
やがてネコ娘がいる部屋の前まで来ると、大きく一つ深呼吸した。
(・・・・なんでこんなに緊張するんだろう・・・。)
自分にそう問いかけながら、ドアノブに手をかける。
そしてゆっくりとノブを回し、ドアを開ける。
部屋の中が少しづつ見えてくる。
やがて肩まで布団を被ったネコ娘の姿も。
(ネコ娘・・・・・。)
ドアを開けた瞬間拒絶されたらどうしようかと考えていたが、どうやら眠っているようだった。
少しホッとして、鬼太郎は部屋へと入った。
一歩一歩静かにネコ娘の元へと近づく。
踏み出す度に心臓がうるさく鼓動する。
やがてすぐ側まで来ると、静かに腰を下ろした。
「ネコ娘・・・・。」
小さな声でそう呟いてみる。
こうして名前を声に出して呼ぶことも久しぶりな気がした。
顔を見れば、熱のせいかほんのり頬が赤く染まっている。
見れば見るほど肌理細やかなその肌に、無意識に手が伸びる。
そっと親指でその頬を撫でれば、滑々として柔らかな感触に意識は支配される。
何度か撫でれば今度はその下にある桃色の唇に目線がいく。
頬より更に柔らかそうでおいしそうだと思った。
まるで吸い寄せられるように顔を近づけていく。
そして鬼太郎の意識はどこかへ飛ばされてしまったように、
音もなく自分の唇をそっと重ねた。
その瞬間ぼうっと浮かんだ答えに、鬼太郎はすんなり納得した。
(あぁそうか、僕にとって君は・・・・。)
鬼太郎がそんな風に考えていると、ネコ娘が目を覚ました。
「・・・・・・?」
まだ頭が働かないネコ娘は夢を見ているのかと思った。
(鬼太郎・・・・・。)
鬼太郎が目の前にいる。
自分に口付けている。
なんと幸せな夢か。
そう考えてもう一度目を閉じる。
・・・が、
今度はバッと目を開き、再度状況を確認する。
「~~~~~!!!???」
夢じゃないとわかると今度はパニック寸前だ。
すると唇が離れ、鬼太郎と目が合った。
「・・・・あ・・・・。」
「きっ・・・・・きた・・・・・!!??」
真っ赤になって口をパクパクさせているネコ娘を見て、
鬼太郎は自分のしたことに気がついた。
「!!ごっ!ごめん!!!そのっ!ぼっ、僕・・・・!!」
ザザッと後ずさり、真っ赤になりながら懸命に言い訳を探す。
(鬼太郎が・・・・あたしに・・・・キ・・・キス・・・した!!??)
真っ赤な頬を押さえながら、ネコ娘も冷静になろうと必死だった。
「えっと・・・あのっ・・・ネ・・・ネコ娘!!」
未だ真っ赤な顔の鬼太郎がネコ娘を呼ぶ。
名前を呼ばれて咄嗟に顔を上げるネコ娘もまた真っ赤なままだ。
すると鬼太郎は両手を畳について頭を下げた。
「ごめん!!」
そのあまりにも真剣な謝罪に、ネコ娘も少しづつ冷静さを取り戻していく。
「・・・・・鬼太郎にとっては、あたしよりもねずみ男のほうが大事なんでしょ?」
どんな言葉が返ってくるかと待っていた鬼太郎に、ネコ娘は静かにそう呟いた。
「そんなことない!」
「そんなことある!!あたしなんて・・・・あたしなんて鬼太郎には必要ないんでしょう!?」
「違うよ、ネコ娘!」
「何が違うのよぉ・・・・っく・・・・。」
抑えてきた気持ちと共に、その大きな瞳からは大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちる。
「ネコ娘・・・・泣かないでよ・・・・。」
「ふっく・・・・あたしの気持ち・・・知ってるくせにっ!!」
慰めなんかじゃどうにもならない。
鬼太郎もそう感じていた。
(そうだ、僕はネコ娘の気持ちを知っていた。
知ってて知らん振りをしてきたんだ。
僕は子供だ。
君にこんなに悲しい思いをさせていたなんて・・・・。)
自分の気持ちに向き合った今、鬼太郎の身体は素直に動いていた。
「ごめん・・・・、ごめんよ、ネコ娘。」
そう言いながら、優しくネコ娘を抱き寄せた。
「!!??」
流れ落ちる涙が止まるほど、ネコ娘の目が大きく見開いた。
「ごめん、ネコ娘・・・・。
僕はずっと自分の気持ちに嘘をついていたんだ。
・・・・気づくのが遅いけど・・・・。」
胸から響いてくる鬼太郎の声が信じられなくて、ネコ娘は上を見上げた。
そこには困ったように眉を下げる鬼太郎の顔。
そのあまりの顔の近さにネコ娘の瞳が揺れる。
「僕には君が必要なんだ。これから先もずっと・・・・。
だから、傍にいてくれないかな・・・・?」
真っ直ぐに瞳を見つめたまま、ネコ娘はゆっくりと口を動かした。
「・・・それは・・・仲間として・・・・?」
そんな遠慮がちな問いかけに、鬼太郎は苦笑いを零す。
そしてゆっくりと首を振った。
「仲間としてじゃないよ。」
落ち着きかけていた胸の鼓動が少しづつ早くなっていく。
顔が再び熱を持ってくるのを感じながら、
それでも瞳は逸らさずにネコ娘が呟く。
「・・・それじゃわからないよ・・・・。」
鬼太郎の言葉に期待している自分がいる。
ドキドキしながらその言葉を待っていると、
今度は鬼太郎が頬を染め、そしてにっこりと笑った。
「・・・・君が好きだよ、ネコ娘。」
その言葉に、その照れた笑顔に、ネコ娘の瞳が大きく揺れた。
そして鬼太郎の胸に顔を埋め、肩を震わせた。
「嘘じゃ・・・・嘘じゃないよね・・・?」
声を震わせながら、ネコ娘は頬を寄せる。
「約束は忘れても、嘘だけはついたことないんだけどな。」
「約束は忘れないでよぉ・・・。」
「はは・・・・、ごめん。」
「・・・・ばか・・・。」


「どうやらうまくいったみたいね。」
「まったく、見てるこっちがヤキモキするよ。」
「ま、これでめでたしじゃの。」
ドアの外で中の様子を伺っていた砂かけ婆とろくろ首とアマビエはやれやれと眉を下げる。
「ところでお婆、ネコちゃんの病気はなんだったの?」
「風邪には違いないが、ま、恋の病じゃろ。」
「こっ・・・!?ホントにそんな病気があるの・・・・?」
「本当にあるかどうかはわからんが、『病が気から』と言うじゃろうが。」
「ネコ娘には今度何か奢ってもらわなきゃ、割りに合わないよ!」
「ふふっ、そうね。」
「さ、わしらはそろそろ退散するぞ。」
「は~い。」
「あ、かわうそ待たせてるの忘れてた。」

 


「・・・・・アマビエのやつ、おせぇなぁ・・・・・。
鮎、あと1匹しかないぞ・・・・。
・・・・喰っちゃうか。」
「コラ~~~!かわうそ~~!!あたいの分まで食うんじゃないよ~!!!」
「ゲッ!!」
「待~~て~~~!!!」

 

 

 

だいぶ前にリクエストしていただいた「鬼太郎とネコ娘のケンカを横丁の仲間が協力して仲直りさせる」

というお話です。

長らくお待たせしてしまって申し訳ありません!!

リク主様のみお持ち帰りくださいませm(_ _)m

リクエストありがとうございました!!

 

 

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