そこにある幸せ

 

 

 

 

 頬をくすぐる風がとても心地よい。くっと見上げれば蒼く広がる空と雲のコントラストが眼を癒す。

 ネコ娘は、ゲゲゲの森の入り口である雑木林の道を軽い足取りで歩いていた。時々小鳥のさえずりも届くし、さわさわと音を立てる木々の優しさに触れているような爽やかさがほっとさせてくれるのだ。
 今日はアルバイトのない休日。せっかくの空いた時間を有効利用させなければもったいない。やっぱりいつでも彼に会いたいな・・・と思うのはネコ娘にとって自然なことだった。

 

「鬼太郎、いるかな?」
 沼地にかかる小橋を渡り終えたところで、珍しくうつむきがちになにやら考え込んでいる姿の鬼太郎を見つけた。普段は家の中でのんびり過ごしているだろうに、どうしたのかと不安になる。
「ねえ、鬼太郎。どうしたの?」
 思わず駆けつけて声を掛けると、鬼太郎は眉根を寄せた表情で見上げ
「これ・・・何故うちにあるのかな?って思ってさ」
 そう答えながら握り込んでいた右手を開くと、手の中に収まっているものを見せた。それは、つるりとした質感の小さなうす桃色の石であった。
「昨日の晩に囲炉裏の淵に置いてあって・・・こんなの、僕持ってないんだよね」
 思案顔で言う鬼太郎に、ネコ娘はぎくりとしてスカートのポケットをまさぐり出す。昨日・・・も鬼太郎を訪ねている。そして心当たりもあって・・・。
「ご、ごめんね!それ私のなの!お守りの石・・・昨日忘れちゃって・・・」
「そっか。ネコ娘のなのか・・・だったらいいんだ」
 鬼太郎はそっと手渡すと、やっと微笑む。
「握った時に暖かい感覚だったから、きっと悪い持ち主じゃないな・・・って思ったよ」
「・・・そんな事分かるの?鬼太郎」
 悪くない、と言われてネコ娘は内心ほっとしていた。いつも幽霊族らしく彼には特別な感じ方があるのだろうと思った。
「ああ、だいたいね。それにこの石は遠い国から採掘されたんだろうね。永い時を超えてきたすごい石だよ」
「そうなの・・・知らなかった」
 ただただ彼の力に感心するばかり。それほどすごいとか、考えたこともなかった。ぽかんとしていると、鬼太郎はくすりと笑う。
「知らないで持ってたのか。おかしいなぁ、ネコ娘は」
「だ、だって、願い事を叶えてくれるって言うし・・・バイト先で安く手に入ったんだもん」
 まるで無知なのをからかわれたような気がして、恥ずかしさをごまかすように言い訳をしてしまう。初めて見たときにとても惹かれ石言葉も気に入ってしまったのだから、いいでしょ?と心の中で反芻していた。
 顔中赤らめている少女へ鬼太郎は言い過ぎたかと思う。懸命に思いを込めていることは石を持ってみた時から感じていたからだ。
「自然のままの石の方が僕は良いと思うけど・・・ネコ娘が欲しかったんだろうからいいんだ」
「う、うん」
 やっと落ち着いたのか、ネコ娘は返して貰った石をポケットの中へしまった。
「ネコ娘・・・その石さ・・・」
「なあに?」
 また何か言われるのかと、ネコ娘は緊張する。ヤケに意味深な気がして気恥ずかしい。
「・・・紅水晶だよね?」
「うん。よく分かったね、鬼太郎」
 もしかして石の意味、知ってるの??とますます恥ずかしくなってくる。
「大事にした方がいいよって言おうと思って」
「そ、そうね。願い事叶うまで大事にするから」
 自分の方が訊いて欲しいと誘っているような答えになってしまい、やっぱり慌ててしまう。どうしよう・・・とドギ
マギしていたが、正面に居る鬼太郎はうん?と小首を傾げた。
 何をそんなにびくびくしているのか、鬼太郎からしたらさっぱり分からない。でも願い事は心の奥底に仕舞っ
ておくものだから、余計な言葉をかけることはしなかった。
「これから予定ある?」
「ううん!」
 鬼太郎から誘ってくれた!とネコ娘は嬉しくなって晴れやかな笑顔を浮かべた。
 自分の方から彼にどうしようかとけしかけるつもりだったのに。
「今、父さんいないんだ。丁度良かった、手伝って貰いたいことがあるんだ」
 今日の鬼太郎は積極的!とつい浮かれてしまうくらい珍しいこと。さっそくパワーストーンの効果があったの
かもしれない。
 どんなことでも、二人きりでいられるだけでネコ娘にとって幸せなのだ。

 鬼太郎は少女の笑顔につられて微笑みながら、ゲゲゲハウスの螺旋階段を上っていく。
「あ!待って、鬼太郎」
 続けてネコ娘が上がる。


 優しい石の輝きの中に、実は鬼太郎の力も込められていることをネコ娘は随分経ってから知ることになる。
 それは彼からの見えない贈り物。
 少女の夢はいつまでも消えることはない――。

 


                                                 終わり 

 

 

~オニアソビ~の井上さまにリクエストssを書いていただいちゃいました!!!

もう心が温まるステキなお話で、幸せいっぱいです~!!(≧▽≦)

皆様にも幸せな気持ちになっていただきたいと思いますので掲載させていただきます!

井上さま、ありがとうございました!!

 

 

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