鬼灯提灯

 

 

 


 妖怪横丁の夏___
昼間は五月蠅い程の蝉の声が一層暑さを感じさせるが、
夜ともなれば森の中は梟の声が時折聞こえるぐらいで後は静かなものだ。
鬼太郎は足元の鬼灯を手折り、何やらごそごそ細工をすると
その中に行き交う螢を一匹、封じ込めた。

---暫くの辛抱だからね・・・---

淡く灯った鬼灯提灯が微かに揺れる。
鬼太郎はまた下駄を鳴らし、森の中の一本道を歩き出した。

---昼間のこと、まだ怒ってるかな・・・---

鬼太郎の脳裏にぷっくり頬を膨らましたネコ娘の顔が浮かぶ。

最初はいつもの様に他愛も無いこと・・・ネコ娘の小さなヤキモチ・・・

兎角恋する乙女の気持ちというのは厄介で面倒だ。
たった今、笑っていたかと思うと、急に怒りだしたり、瞳を潤ませたり
感情が忙しく変化して自分にはサッパリ理解出来ない・・・

ここで鬼太郎は口元に苦笑いを浮かべる。

---ボクは自分にまで嘘を吐くんだな・・・---

そう・・・嘘だ。
本当はそんな事ではない。
拗ねてあの大きな瞳が潤むのが愉しいのだ・・・
自分の些細な言動ひとつで彼女が笑い、怒り、胸を震わせる・・・それが鬼太郎には堪らなく心地好いのだ。
だが・・・真珠の珠を瞳から零しながら走り去る少女は露ほども気付いていないだろう。
何にも捉われず執着などしない彼の全てを唯一捕えて離さないのが自分なのだということに・・・

---ボクは一番厄介な妖怪に捕まったようだよ・・・ネコ娘・・・---

鬼太郎が口元に嬉しげな笑みを象った・・・

 

 

 

 ネコ娘は風呂から上がると何度目かの大きな溜息を吐いた・・・
鬼太郎が依頼主の人間に優しいのはいつものこと・・・だけど・・・
それが綺麗な少女だとデレデレ必要以上に優しくなる。
そんな鬼太郎を見ていると苦しくて・・・胸の中を重たく黒い雲に覆われた様になって
つい醜い自分を曝け出してしまう・・・後で酷い自己嫌悪に堕ち入ると分かっていても・・・
今日だってそう・・・

---嫌われちゃった・・・よね・・・---

鬼太郎の前ではいつでも笑っていたいのに・・・

---もし・・・私が人間だったら鬼太郎は・・・---

「なに?ネコ娘、百面相?」

突然声を掛けられ半分猫化した状態でネコ娘が振り向く。

「鬼太郎!!どうしたの?」

「今夜は朔だよ・・・作るんだろう?」

持っていた鬼灯提灯をネコ娘に差し出すと

「覚えててくれたの?」

手に取るネコ娘の表情が嬉しげに輝き、鬼太郎には眩しい程だが
そんな気持ちを隠すように

「ネコ娘との約束を忘れたら後が恐いからねぇ・・・」

ワザと意地悪くクスリと笑って見せた。

「なによ!それっ!!」

ネコ娘が振り上げた手を鬼太郎は優しく捕まえ握り直すと
鬼灯提灯の淡い灯りだけを頼りに新月の暗い森の中へと二人は消えて行った・・・

 

                     終

 

 

秋津さまの運営される「鬼灯」で15555HITを達成された記念に、

フリーのssを配布されておりましたので、ありがたくいただいて参りました。

秋津さま、本当にありがとうございました!

 

 

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