「ねぇ、鬼太郎!蛍を見に行かない?」
そう言って君は浴衣姿で僕の家に現れた。
「もうそんな時期じゃったか。鬼太郎、行ってきなさい。」
茶碗風呂に浸かりながら、父さんが言う。
僕は短く返事をして、少しだるそうに起き上がる。
チラリと見上げれば、ネコ娘は嬉しそうに微笑んでいる。
「それじゃあ父さん、いってきます。」
「いっといで。」
挨拶を交わし、僕とネコ娘は家を出た。
浴衣姿で跳ねるように僕の前を歩く君。
ふわりと舞う大きなリボンとは裏腹に、その白い項がいつになく艶っぽく見える。
やがて池の畔に辿り着き二人で腰を下ろす。
「わぁ~、今年もたくさん飛んでるね。」
蛍をびっくりさせないように、ネコ娘は小声でそう呟く。
「そうだね。」
僕も静かにそう返した。
それからしばらく、僕らはただただ蛍の発する幻想的な光を眺めていた。
するとネコ娘がゆっくりと口を開いた。
「あたし達妖怪は永遠を生きるけど、蛍はホントに僅かな命なんだよね・・・。
なんだか、儚いよね・・・。」
そう呟いた声があまりにも悲しそうで、僕は思わず振り向いた。
伏せられた大きな瞳は長い睫に隠されて、今にも泣き出しそうだった。
そう思ったら、僕の胸はギュッと締め付けられた。
気づいたら僕は、その白くて細い手を握っていた。
「っ・・・!あ・・・・。」
ぴくりと僅かに動いたその手を、僕は強く握った。
「・・・大丈夫だよ・・・。」
そう言ってはみたものの、何が大丈夫なのか僕にもわからなかったけど、
ネコ娘にはそれで十分だったみたいだ。
「・・・・うん。」
小さく頷いて、柔らかく微笑んだ。
君は優しすぎるから、
その心が壊れないように、僕が守っていくから。
だからずっと傍で笑っていて・・・・。
終