永遠の片思い

春のゲゲゲの森。

まだ朝日が昇り始めたばかりの早朝。
霧の中を眠そうにぽてぽて歩くネコ娘がいた。
向かっているのは鬼太郎の家。

やがて目的地に到着し、のったりと梯子を上がり、家の中に入る。
この家の住人は、それぞれ
布団に包まり気持ちよさそうに寝息を立てている。
それを見て、ネコ娘は鬼太郎の
背中にぴったりとくっつくように横になり、
そのまま眠りについた。

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数時間後。

寝返りをうとうとした鬼太郎は、何かに当たったような気がしてそちらを見やる。
するとそこには気持ちよさそうに眠るネコ娘がいた。

(・・・なんだ、ネコ娘か・・・。)
と、再び寝ようと目を瞑ったが、次の瞬間バッと目を開ける。
(!?なんでネコ娘が!?)
訳がわからなかった。
ひとまず父を起こさないように、小声で名前を呼び肩を揺する。
「ネコ娘、起きてよ。」
するとネコ娘は少しだけ目を開けるが、どうやら寝ぼけているようで、
肩に置かれた鬼太郎の手を自分の頬に充て、スリスリと頬ずりし始めた。
(!!)
鬼太郎は頬を染めたまま、どうしたものかと困ってしまった。
しかしすぐに、ネコ娘の頬に充てられている手に心地よい暖かさを感じて、
もう少しだけこのままでいようと思った。


遠くで話し声が聞こえる。
それからすぐに自分を呼ぶ声。
「きたろ~?起きてよぉ~。」
その声は妙に甘ったるい。
「ねぇ、きたろぉ~。」
「ん・・・おはよう、ネコ娘・・・。」
これ以上その甘えるような声を聞いていると変な気分なりそうで、
仕方なく起きる。
「おはよ!朝ごはん出来てるから顔洗ってきてね。」
そう促され、鬼太郎は外に出た。
「ふわぁぁぁ~・・・。」
一つ大きな欠伸をし、朝の空気を吸う。
(それにしても、なんでネコ娘が・・・。)
そんなことを考えながら、目の前の池で顔を洗う。

家に戻ると小さなちゃぶ台の上に、美味しそうな朝ごはんが並んでいる。
そして朝ごはんに混じって、目玉おやじもちょこんと座っている。
「父さん、おはようございます。」
「おぉ、鬼太郎、ネコ娘がうまそうな朝ごはんを作ってくれたぞ。」
「はい、それじゃいただきましょうか。」
そう言って自分の場所に座る。
そこへ
お茶を持ったネコ娘も加わった。

「!?」
鬼太郎はちょっと驚いた。
食卓についたネコ娘だったが、なぜか鬼太郎にぴったりとくっついている。
「・・・ネコ娘、どうしたんだい?」
「?何が?」
ネコ娘はきょとんとしている。
「いや、なんでも・・・。」
無意識なのだろうか?
今日のネコ娘は何かおかしい。

ネコ娘の異変はその後も続く。
朝ごはんを終え、しばらくのんびりしているときも鬼太郎にぴったりくっついて
離れなかった。
昼前には3人で横丁へと出かけたが、そこへ行くまでずっと鬼太郎の腕から離れな
かった。
横丁に到着し妖怪長屋へ向かうと、箒で長屋の前を掃いている砂かけ婆を見つけ、
ネコ娘は駆けて行った。
ずっと組まれていた腕の温もりがなくなり、少し寂しく感じた鬼太郎だったが、
ネコ娘がいないうちに、と目玉おやじに話しかける。
「父さん、今日のネコ娘、変じゃないですか?」
「変?」
「なんかやたらくっついてくるんですが、本人は無意識みたいで・・・。」
「うむ、それはおそらく、春だからじゃろう。」
「春だから・・・ですか?」
いまいちよくわからず聞き返す。
「春は猫にとって恋の季節じゃからの。」
「そういうものですか・・・。」
言われてみれば頬がほんのり上気している。
ゆっくりと長屋に向かって歩いていくと、
それまで砂かけ婆と話していたネコ娘がこっちに気づき、また腕を組んできた。

「おやおや、今日は随分と仲がいいのぅ。」
砂かけ婆は目を細めてそれを見る。
「春じゃからのう。ネコ娘も少しづつ大人へと近づいているということじゃよ。」
目玉おやじも砂かけ婆と同様に、微笑ましく見つめる。
「えっ!?あたし、大人に近づいてるの?」
ネコ娘は嬉しそうだった。

(なるほど・・・これがもう少し大人なら、発情期になるってことか。)
「ネコ娘、ちょっと。」
そう言ってネコ娘を少し離れたところに連れ出す。
「どうしたの、鬼太郎?」
きょとんとしているネコ娘の肩に手を置き、真剣な顔で話し出す。

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「ネコ娘、春の間バイトはしないほうがいい。」
「?どうして?」
「君自身気づいてないみたいだけど、今人間界で仕事をすれば必ずトラブルになる。」
「??トラブル?」
ネコ娘にはまったく理解できていない。
「今日の朝、どうして家で寝てたの?」
「う~ん、あたしにもよくわかんないんだけど・・・、
なんとなく人肌恋しかったような・・・。」
「やっぱり。ここに来るまでだって、ずっと僕から離れなかったんだよ、
もし人間界に出て、誰かれ見境いなくくっついてごらん?
変な勘違いされてトラブルになるだろう?」
「・・・そっか、そうだよね。」
反論する隙間も与えないで説明する鬼太郎の言葉に、ネコ娘は素直に納得した。

「それに、春のゲゲゲの森はとても気持ちいいし、無理に働くこともないさ。」
笑顔の鬼太郎に、そうだねと、やっぱり笑顔で返す。
「じゃあ父さんたちのところに戻ろう。」
「うん!」
再び腕を絡めて歩き出す。
鬼太郎は気付かれないように、ふぅと息をついた。
(まったく無邪気なんだから・・・。)


僕以外の誰かに触れて欲しくないなんて、
君には絶対言えないけど、
この気持ちに気付かないうちは、

 

 

永遠に僕の片思い・・・。

 

 

 

「RDG」の矢野様が企画された

「MPL祭り」に出品させていただきました。

 

 

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