ある秋の日の朝、鳥の声がさえずるゲゲゲの森にとある人物の姿があった。
ゆっくりと梯子を上ってくる足音に気づいた鬼太郎はゆっくりと体を起こした。
「こんにちは・・・・。」
遠慮がちな声で入ってきた人物に対し、鬼太郎は笑顔で返す。
「やぁ、ミウちゃん、久しぶりだね。」
そう、一人でこのゲゲゲハウスを訪ねてきたのは鬼界ヶ島のミウだった。
にこやかな鬼太郎の笑顔に、それまで少なからず緊張していたミウも解れていく。
「鬼太郎さん・・・・、あ、おやじさんは・・・・?」
「あぁ、父さんは昨日の夜から出掛けてるんだ。」
「そうですか・・・・。」
目玉おやじのことを聞いても尚、ミウはキョロキョロと辺りを見回すような仕草を見せる。
「ミウちゃん?」
「あ、いえ、あの・・・、ネコ娘さんは・・・?」
「あぁ、ネコ娘ならもうすぐ来ると思うけど、今日はバイトだからね。」
「そうなんですか。」
「今日の用事はネコ娘には内緒なんだし、丁度よかったね。」
「そうですね。」
内緒というには楽しげに会話を交わす二人。
そこへ元気のよい足音が聞えてくる。
「噂をすれば・・・。」
そう顔を見合わせてクスッと笑う。
「きったろ~??」
莚を捲くるのと同時に、元気な声が飛び込んできた。
「やぁ、ネコ娘。」
「あっ、あれ!?ミウちゃん!!??」
「ご無沙汰してます、ネコ娘さん。」
「えっ?あ、うん、久しぶりね!
・・・今日は、どっ、どうしたの!?」
一応挨拶の返事は返すものの、明らかに動揺しているネコ娘。
「あ、えっと・・・。」
「今日はちょっと用事があって来たんだよ。」
言いよどむミウに代わって鬼太郎がそう答える。
「用事・・・?」
「うん。あ、でも今日は僕が付き合うから大丈夫だよ。
ネコ娘はこれからバイトがあるだろう?気をつけて行くんだよ?」
鬼太郎にしては珍しく、そこまでをやや早口で言い切った。
「さぁ、ミウちゃん、そろそろ出掛けようか。」
「あっ、はい!ネコ娘さん、お仕事頑張ってくださいね。」
「へっ?あ、うん・・・・。」
「じゃあ、行ってくるよ。」
そう言って二人は出て行った。
一人ゲゲゲハウスで呆然としているネコ娘だが、
次に頭の中に渦巻くのは二人のデート姿。
「鬼太郎とミウちゃんが・・・・デーートォーー!!???」
両手で頭を抱え、なにやら呟きながら悶絶するネコ娘。
外ではそんな彼女の様子を想像してクスクスと笑っている鬼太郎。
それを不思議そうに見つめるミウが口を開く。
「あの、鬼太郎さん?」
「あぁ、ごめんよ。さぁ、どこから行こうか。」
(いつも僕を想ってくれる君だけど、たまに不安になることがあるんだ。
ただでさえ、君はモテるからね。
だから、たまにはヤキモチを焼かせてみたい。
これって僕の我侭かな?)
秋の虫が泣き出す頃、ネコ娘はバイト帰りの道をトボトボと歩いていた。
「はぁ・・・、ミウちゃん、前に鬼太郎に聞きたいことがあるって言ってたけど、
もう言ったのかな・・・・・。」
今日は1日バイトに身が入らなかった。
もちろん原因はあの二人。
コロコロ変わる表情と共に多彩な感情を持つネコ娘は、
一人モヤモヤした1日を過ごした。
そんなときでも自然と足が向いてしまうのがあの家だ。
手には土産まで持って。
もちろんミウにも食べて欲しいという気持ちからだが、
そう思う心とモヤモヤした感情が複雑に絡み合う。
朝とはまったく違う足取りで梯子を上り、静かに莚を捲る。
「・・・ただいま。」
「やぁ、おかえり、ネコ娘。」
「おかえりなさい、ネコ娘さん。」
ニコニコとネコ娘を出迎える二人を見て、ネコ娘は引きつった笑顔を浮かべてしまう。
すると、ミウがなにやら嬉しそうにネコ娘に近づいてくる。
「?」
「あの、ネコ娘さん、コレを・・・・。」
そう言って差し出したのは可愛らしいピンクの包装紙でラッピングされた薄い箱だった。
「ミウちゃん、これは・・・・?」
「実は、以前ネコ娘さんにいただいた霊界符のお返しがしたくて・・・。
それで今日、鬼太郎さんにつきあってもらったんです。」
「にゃっ!?そう・・・だったの・・・・。」
「気に入るかどうかわからないけど・・・・。」
「そっ、そんなことあるわけないよ!!
ミウちゃんが選んでくれたものなら嬉しいに決まってるじゃない!」
「ネコ娘さん・・・・。
開けてみてくれますか?」
「うん!」
そんな二人のやりとりを、鬼太郎は満足そうに眺めていた。
やがて箱を開き中のものを取り出すと、ネコ娘の顔がぱぁっと明るくなった。
「わぁぁ!キレイ!!」
「本当ですか!?・・・よかった・・・・。」
目の前に広げて出したのは淡いピンクのハンカチだった。
隅には蝶が描かれており、とても上品で可愛らしいものだった。
「ネコ娘さんって、なんとなく蝶のイメージだったから、
これを見た瞬間に決めてしまったんです。」
「ミウちゃん・・・・。すごく嬉しい!本当にありがとう!!
あたし、ずっと大事にするわ!」
ミウの気持ちに、ネコ娘の頬も上気する。
「よかったね、ネコ娘。」
胡坐をかいたまま二人の様子を見ていた鬼太郎も嬉しそうだった。
「うんっ!あ、今お茶入れるから、二人とも座ってて!
今日はね、おいしいケーキを買ってきたのっ!
ミウちゃんにぜひ食べてほしくって!」
嬉しさからそうペラペラと話しながら水場に向かうネコ娘。
そんな様子を見てミウは、
(あぁ、そうか。)
と一人納得した。
(鬼太郎さんはきっと、ネコ娘さんのこういうところが・・・・・。)
そう考えながら鬼太郎をこっそり見ると、
鬼太郎もまたネコ娘同様嬉しそうだった。
(やっぱり、ネコ娘さんには敵わないな・・・・。)
そんな風に一人眉を下げるミウに鬼太郎が気づいた。
「ミウちゃん、どうかした?」
「えっ?あ、いえ!なんでもないんです。」
そう笑顔で答えれば、鬼太郎はそれ以上聞いてはこなかった。
あたりはすっかり闇に包まれ、月が真上に上った頃、
一同はゲゲゲハウスの前にいた。
「じゃあ、元気でね、ミウちゃん。」
「はい。鬼太郎さんもお元気で。」
「ミウちゃん、ハンカチ、本当にありがとう。
今度来たときはまた私がいろんなところを案内するわ。」
「えぇ、ぜひ。」
「じゃあ、ミウちゃんを頼んだよ、一反もめん。」
「任せんしゃい!」
そう言ってミウを背中に乗せ、一反もめんは空へと上がっていく。
「ミウちゃ~~~ん!またね~~!!!!」
「ネコ娘さんもお元気で~~~!!」
鬼太郎とネコ娘、そしてミウの3人は見えなくなるまで手を振る。
「・・・・行っちゃったね。」
「あぁ、そうだね。」
「それにしても、言ってくれればよかったのにぃ~!!」
「?」
「ミウちゃんの用事!」
「あぁ、だって、言ってしまったらつまらないだろ?」
「そりゃ~そうだけど・・・・でも・・・・。」
怒っていたはずが、ヤキモチを焼いていたことがバレるのではないかと思うと自然と声が小さくなる。
そんなネコ娘に鬼太郎は、
「もしかして、デートだと思った?」
と顔を寄せた。
「にゃっ!!??」
ネコ娘は、質問の内容と顔の近さに動揺した。
「ホント、君はわかりやすいね。」
「なっ!何よ、それぇ~!!」
「まぁ、そこが君のいいところでもあるんだけど・・・。」
「・・・・・へっ?」
「さて、そろそろ父さんを迎えに行かなきゃ。
ネコ娘も来るかい?」
「えっ?いや、行くけど・・・さっきのって・・・・。」
「ネコ娘、置いてくよ?」
「にゃっ!まっ、待ってよ、きたろ~~!!!」
笑ってる君も
怒ってる君も
全部まとめて君のいいところ
終