昼間のうちはまだ蝉の泣き声がするものの、
夕方にもなればもう秋の虫が鳴き始めている。
そんなある日の夕暮れ。
父さんは相変わらず、気持ちよさそうに茶碗風呂を楽しんでいる。
僕はといえば、ねずみ男がどこかから持ってくる本を読んでいた。
どうせ大した本じゃないんだろうと思っていたけど、
読んでみると意外に面白く、僕は時間が経つのも忘れていた。
ふと気がつけば、空にはすっかり月が昇っていた。
僕は莚を捲り、外へ出た。
満月ではないけれど、それはとても明るくて、なんだかホッとする光だった。
こんな感じ、他にもどこかで・・・・。
そう考えたとき頭に浮かんだのは、
いつでも僕を照らしてくれる彼女の笑顔。
そして彼女がいつか言った言葉を思い出す。
「あたし、月って好きだな。
だって、まるで皆を見守ってくれてるような気がするの。
だから、あたしも月みたいになれたらいいな・・・。」
そう言っていた。
僕は小さく息をついて、ゆっくりと月を見上げた。
大丈夫。
君は、月よりも温かく僕を照らしているよ。
こんなこと、恥ずかしくて君には言えないだろうけど・・・。
そんな風に考えていると、よく知った妖気が近づいてきた。
目線を落としてみれば、森のほうから駆けてくる姿。
僕の姿に気づいたのか、君は笑顔になって手を振る。
ほらね、君は月よりもずっと近いところで僕を照らすんだ。
いつまでもそうやって君が笑えるように、
僕は月に願ってみるよ。
終