鬼太郎とノラの力で猫ショウは子猫へと生まれ変わった。
「いや~、一時はどうなることかと思ったわい。」
「復讐だけに生きるなど、悲しいことじゃよ。」
「ま、何はともあれよかったのぅ。さて、帰るとするかの。」
目玉おやじ、砂かけ婆、子泣き爺がそんな会話を交わしながら歩き出すと、ネコ娘が口を開いた。
「あたし、まだ残ってる猫がいないかどうか見てから帰るわ。」
猫に関わることなら自分がしっかりしなければいけないところ、
あろうことか操られ、なんの役にも立てなかったことにネコ娘は責任を感じていた。
「じゃあ、僕も付き合うよ。」
そんなネコ娘の心情を察してか、鬼太郎がそう言った。
「あ、ありがとう!」
「ふむ、では二人とも頼んだぞ。わしらは先に帰っておるからの。」
そう言って、鬼太郎とネコ娘を除くメンバーは帰っていった。
「ニャア。」
「クロも戻っていいわよ。お疲れ様。」
足元で短く声をあげた相棒のクロに労いの言葉をかけると、もう一度短く鳴いて駆けていった。
「じゃあ、一通り見て回りましょ。」
「あぁ。」
意外に広い町の中を、二人は気配を探りながら歩いていた。
「この辺にはいないみたいね。」
「そうだね。」
「・・・・それにしても・・・・。」
そう言ってふと立ち止まったネコ娘が、鬼太郎を見下ろす。
「?」
不思議そうに見上げる鬼太郎に、しゃがみこんだネコ娘の顔が近づく。
「猫になって、どんな気分?」
「えっ・・・・?どうって・・・・。」
下から見上げるネコ娘の表情は新鮮で、不思議な感覚に囚われた。
「ねぇ、ちょっと撫でてみてもいい・・・・?」
「へっ?・・・あ・・・別に・・・いいけど・・・。」
嫌がられるかもしれないと思っていたネコ娘は、その返事を聞いてホッとした。
そしておずおずと手を伸ばし、鬼太郎の背中をそっと撫ではじめた。
優しく撫でられ、鬼太郎はなんだか心が落ち着いていくのを感じていた。
「・・・どんな感じ?」
「う~ん・・・・、安心する感じ・・・・かな。」
「ふふっ。・・・・ねぇ、鬼太郎?」
「・・・なんだい?」
「・・・ちょっとだけ、抱っこしてもいい・・・?」
「えぇっ!!??」
ネコ娘の大胆な申し出に、鬼太郎は心底驚いた。
ネコ娘とて普段の姿なら絶対にこんなことは言わないだろうが、
猫の姿の鬼太郎がとても可愛らしく、抱いてみたい衝動に駆られたのだ。
「いや・・・それは・・・・。」
「それっ。」
「わわっ!!」
鬼太郎が返答に困っている隙に、ネコ娘はひょいっと抱き上げてしまった。
「ちょ、ちょっと!ネコ娘!!」
「えへへ。やっぱり可愛い~。」
鬼太郎の両脇を抱え、ネコ娘は自分の腕の中へと納めてしまった。
最初は恥ずかしさで見えていなかったが、ふと目を向けると目の前にはネコ娘の白い首筋が見えた。
これも猫の習性か、ふんふんと匂いを嗅いでみるとなんとも言えない甘い香りが漂う。
普段からほのかにいい香りを漂わせているネコ娘だが、
鬼太郎が猫になったことでいつもとは感じ方が違うようだった。
それがなんなのか知りたくて夢中で匂いを嗅いでいると、ネコ娘がくつくつと身体を震わせた。
「・・・やだぁ、くすぐったいよぉ!」
そういわれても尚、鬼太郎の猫としての衝動は止まらない。
「ひゃっ!」
気がつけば、ネコ娘の白い首筋をぺろりと舐めていた。
「きっ、きたろ!?」
驚いてそう声をあげるネコ娘にも構わず、鬼太郎はその不思議な感覚に囚われていた。
ペロペロと首筋を飽きることなく舐め続ける鬼太郎に、ネコ娘は溜まらず抗議する。
「にゃっ・・・・きっ・・・きたろ・・・・っ!?やっ・・・ダメだったらぁ・・・・!」
味などするわけがないのに、ネコ娘の身体から甘い蜜でも噴出しているのではないかと思うほど甘かった。
鬼太郎は何も考えられず、本能の赴くままにネコ娘の肌をぺろぺろと舐め続けた。
「にゃっ・・・・・きたろ・・・・やっ・・・・・。」
くすぐったいのに鬼太郎に舐められているという感覚に、ネコ娘はなすがままになってしまう。
やがて鬼太郎の舌が顔に辿りつき、目についた柔らかそうな唇をぺろりと舐めあげた。
「っ!!??」
さすがにびっくりしたネコ娘が、身体をビクンと震わせた。
しかし、肌とは違うそのプルリとした感触に、鬼太郎はただただ溺れていた。
(あぁ・・・・甘い・・・・。)
「んん~~~~っ!!」
突き飛ばすわけにもいかず、ネコ娘は顔を真っ赤にして耐えていたが、
鬼太郎が顔までよじ登ってきたせいで、そのまま後ろに倒れてしまった。
「んっ!!」
すると一瞬鬼太郎の舌が唇から離れた。
「ぷはっ!ちょ、ちょっと、鬼太郎!!」
「・・・へっ?」
必死に自分を呼ぶ声に、鬼太郎は意識を戻される。
きょとんとして目の前を見ると、自分の下で顔を真っ赤にして、
怒っているのか恥ずかしいのかそんな複雑な表情で自分を見ているネコ娘の姿があった。
そこで初めて自分がしていたことを理解した。
「!!!!」
理解した途端、鬼太郎の顔も恥ずかしさで真っ赤になる。
「ごっ!!ごめんっ!!!」
咄嗟に謝りその場を退いた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
赤い顔で無言の二人は、互いの顔をまともに見ることができない。
鬼太郎はなんとか冷静になろうと考えた。
普段なら絶対にこんなことはしない。
ならばなぜか?
それは猫になったからに他ならない。
ということは、他の猫達ももしネコ娘に抱かれたら、あんな風になってしまうのだろうか。
あれは、猫族だけに感じ取れるフェロモンのようなものなのか。
だとしたら、いつ雄猫にあんなことをされるかわからない。
そこまで考えると、鬼太郎の赤い顔が段々青ざめていく。
「あ・・・あの・・・鬼太郎・・・・?」
何も言わない鬼太郎に、ネコ娘が不安そうに声をかけた。
「え?」
一人で考え込んでいた鬼太郎は素っ頓狂な声をあげた。
「・・・・そんなに、お腹空いてたの?」
「へっ?」
ネコ娘は、どうやらお腹が空いていると勘違いしたようだ。
「あ・・・イヤ、まぁ・・・ははは・・・・。」
「じゃあ、帰ったら朝ごはんにしましょ?」
まだほんのり赤い顔で、ネコ娘はそう言って微笑んだ。
「あ・・・うん。」
とりあえずこの場は誤魔化せたようだった。
「じゃあ、帰ろう?鬼太郎。」
そう言って立ち上がり歩き出すネコ娘の後姿を見つめながら、鬼太郎は思った。
(これからは人間だけじゃなくて、雄猫にも注意が必要だな・・・。)
終