想いの記憶

ヤトノカミを倒しゲゲゲの森へと帰ってきた鬼太郎は、
それから暫くの間いつも以上に呆けていた。
そんな鬼太郎の姿に、ネコ娘の女の勘が働く。
別れの挨拶もできなかった人間の少女。
華だ。
鬼太郎は普段から
美人に弱く、ネコ娘にとってこんなことには慣れっこのはずだった。
しかし、どうも今回はちょっと違うようだった。
ネコ娘は言い知れない不安に襲われる。
(まさか、本気で恋してるんじゃ・・・。)
今までの傾向から見ても、鬼太郎の好みは『大人しめの美人』だ。
華も間違いなく当てはまる。
では自分はどうか?
どちらかと言えば勝気で、悪くはないと思うが美人ではない。
まして、か弱い人間でもない。
そもそも鬼太郎の好みにはまったく引っかからないのだ。
ネコ娘はそこまで考えると、段々気分が暗くなってくる。
(はぁ・・・、望みないのかなぁ・・・。)


ある日の妖怪退治。
家にいるときには相変わらずぼーっとしているが、戦いが始まればそこはさすがの鬼太郎だ。
対峙する敵にだけ集中している。
しかし、ネコ娘にとって事は重大だった。
そのため戦いの最中だというのに集中力を欠いてしまった。
その時、一瞬の隙ができる。
「ネコ娘!!」
「えっ?」
顔を上げたときには眼前に敵の姿。
そして次の瞬間、体勢を整える間もなく吹っ飛ばされた。
「っ!!」
咄嗟に受け身を取る暇もなく、後ろにあった大木に
背中から打ちつけられた。
更に反動で後頭部を強かに打ってしまった。
「くぁっ!!」
その瞬間頭が真っ白になり、そのまま意識を失ってしまった。
「ネコ娘ーー!!」
崩れ落ちるネコ娘の姿を見て悔しげに眉をひそめ、鬼太郎は敵にトドメを刺しにかかる。
「体内電気ーーーーー!!!」
「グアァァァアーーーー!!!」
敵は苦しげな叫び声を上げ、消滅した。
鬼太郎はそれを見届けてからネコ娘の元へ駆け寄り、その身体を起こす。
「ネコ娘!ネコ娘っ!!」
頬を軽く叩くが、まったく反応がない。
「鬼太郎!とにかく砂かけのところに運ぶんじゃ!」
「はい!」
父の指示に従い、鬼太郎はネコ娘を抱えて走り出した。


「お婆!!来てくれ!!」
長屋に着いた鬼太郎は、奥に向かって声を掛けた。
「なんじゃ!騒がしい!」
「お婆!ネコ娘が・・・。」
そう言って意識のないネコ娘を見せる。
「一体何があったのじゃ!?
と、とにかく上の部屋に運ぶんじゃ!」
そう言われ、鬼太郎はネコ娘を抱えて階段を上り、空いている部屋に入る。
「今
布団を持ってくるから待っておれ!」
そう言ってすぐに別の部屋から布団を運んできた。
用意された布団にネコ娘を寝かせ、鬼太郎は事情を説明し始めた。
それを聞いて、砂かけ婆はネコ娘の背中と後頭部を触診する。
「ふむ、外傷はないが背骨が折れておるかもしれん。
ひとまず様子を見るしかないわい・・・。」
「ネコ娘・・・。」
 鬼太郎はじっとネコ娘の顔を見つめていた。
「あとはわしに任せて、お主らは家に戻るがよい。」
「・・・わかった。頼むよ、お婆。」
「任せておけ。」
自分がここにいたところで何も出来ない。
ならば砂かけ婆に任せるしかない。
鬼太郎は後ろ髪を引かれつつ長屋を後にした。

自宅への帰り道、目玉おやじが口を開いた。
「のぅ鬼太郎、最近ネコ娘に元気がなかったようじゃが、何か心当たりはあるか?」
「えっ?いえ・・・、気付きませんでした・・・。」
鬼太郎がネコ娘の異変に気付くわけがなかった。
当の鬼太郎も呆けていたのだ。
(何か悩んでたのか・・・?)
「・・・そうか。まぁ、目が覚めたら聞いてやるんじゃな。」
「はい・・・。」
そんな会話を交わし、親子は自宅へと帰っていった。


その夜、鬼太郎は夢を見た。
そこはいつもの自分の家。
いつものように目玉おやじに湯加減を聞く。
そこへやっぱりいつものように、
「きたろ~?」
と、ネコ娘の声がする。
「やぁ、ネコ娘。」
そう言って迎え入れるが、入ってきたネコ娘の顔に表情はない。
「ネコ娘・・・?」
何かがおかしい。
息苦しい空気の中、ネコ娘が口を開いた。
サヨナラ・・・。」
無表情のまま涙を溢し、そう呟く。
「ネコ・・・娘?」
「サヨナラ・・・鬼太郎・・・。」
もう一度そう言うと、その姿がスーッと遠ざかっていく。
「ネコ娘っ!!」
名前を呼びながら追いかけるが、追いつくどころかその姿はどんどん遠ざかる。
「待ってよ!ネコ娘!!ネコ娘ーーーー!!」
必死に呼ぶが、ネコ娘の姿は見えなってしまった。

「ネコ娘!!!」
自分の声で目が覚めた。
額には汗が滲み、
心臓はバクバクと鳴っている。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
「どうしたんじゃ、鬼太郎・・・。」
目を擦りながら、目玉おやじが起き上がる。
「すみません、父さん・・・。なんだか、すごく嫌な夢を見て・・・。」
そう言って汗を拭う。

その時。

「鬼太郎~!!大変じゃ!!ネコ娘が・・・・、ネコ娘が!!」
家の下から砂かけ婆の声が聞こえる。
鬼太郎は急いで外へ出た。
「お婆!ネコ娘がどうしたんだ!」
「とにかく来てくれ!!」
そう言って、砂かけ婆は長屋へと走り去っていく。
鬼太郎もすぐに目玉おやじを頭に乗せ、後を追う。
(一体何が・・・・。)
鬼太郎の頭に先ほどの夢がよぎる。
(ネコ娘・・・・。)
長屋に着くと、ネコ娘のいる部屋に真っ直ぐに向かった。

「ネコ娘!!」
そう名前を呼び部屋の中を見ると、昨晩と同じ場所に布団があり、
ネコ娘も変わらず横になっていた。
「お婆、一体何があったんだい?」
布団の横に腰を下ろし、ネコ娘を見つめていた砂かけ婆に問いかける。
そして、鬼太郎も砂かけ婆の横に座る。
「・・・・。」
砂かけ婆は鬼太郎の問いには答えず、相変わらずネコ娘を見つめていた。
それにつられて鬼太郎もネコ娘に視線を移す。
「ネコ娘!」
ネコ娘は目を開けていた。
虚ろだが、呼びかけるとこちらを向いた。
「よかった・・・。ネコ娘、大丈夫かい?」
一先ず目を覚ましたことに安堵した鬼太郎は、優しくそう声を掛けた。
しかし・・・。

「・・・あなたは誰?」
「・・・えっ?」
「なんじゃと!?」
鬼太郎だけでなく、目玉おやじも驚きを隠せない。
「ネコ・・・娘・・・?」
「ネコ娘!鬼太郎のことも忘れてしまったのか!?」
それまで黙って見つめていた砂かけ婆が少し強い口調で訴える。
「き・・・たろう・・・?」
「そ、そうだよ!僕だよ、ネコ娘!」
「・・・ネコ・・・娘、それが私の名前なんですか?」
「!!」
その場にいた全員が驚いた。
「・・・頭を強く打ったせいで、記憶を無くしてしまったんじゃろう・・・。」
砂かけ婆が、顔を歪めそう呟く。
「そんな・・・。」
「なんということじゃ・・・。」
砂かけ婆の言葉を聞き、親子は項垂れた。
「・・・すぐに戻るんでしょうか・・・。」
俯いたまま鬼太郎が呟く。
「・・・こればかりは、本人次第じゃ。
明日戻るかもしれんし、もしかしたら・・・永遠に・・・。」
「そんなっ!!」
その先は聞きたくないとばかりに、砂かけ婆の言葉を遮る。
ふとネコ娘に視線を戻すと、その瞳はどこも見ていない。
すると、
「よいか、お主の名前はネコ娘。ここは妖怪横丁にある妖怪長屋じゃ。」
と、砂かけ婆は優しく言い聞かせる。
「私はネコ娘・・・。ここは妖怪長屋・・・。」
ネコ娘は一つづつ噛み締めるように呟く。
「そうじゃ。どれ、背中を見せてみぃ。」
砂かけ婆は笑顔で頷くと、ネコ娘うつ伏せにさせる。
「うぅっ!!」
身体を動かされ痛みが走ったのか、苦痛に顔を歪める。
「やはり背骨が折れておるようじゃの・・・。
しばらくは安静にしておるんじゃぞ。」
そんなやり取りを黙って見つめていた鬼太郎の頭に、またも昨日見た夢が浮かぶ。
(まさか・・・、まさかサヨナラって、こういうことだったのか・・・・?)
「わしは薬を作ってくる。二人はネコ娘についててやってくれ。」
「・・・わかった。」
砂かけ婆はそう言って部屋を出ていった。
「・・・父さん、僕はどうすれば・・・。」
「・・・今はとにかく側にいてやることじゃ・・・。
わしはこれから井戸仙人のところへ行ってくる。
あやつなら何かいい知恵を貸してくれるかもしれん。」
「はい・・・。お願いします、父さん。」
目玉おやじは化け烏を呼び、井戸仙人のところへと向かった。
小さくも頼もしい父の背中を見送りながら、鬼太郎は自分を責めた。
(僕には何も出来ないのか!ネコ娘は、いつも僕を助けてくれたのに・・・。)
「きた・・・ろうさん?」
慣れない呼び方に違和感を覚えながら、
「なんだい・・・?ネコ娘・・・。」
と、恐る恐る返事をする。
「あなたと私は、友達だったんですか?」
いつものネコ娘に、
「友達だよ。」
と言えば、がっかりしたように溜め息の一つもつくだろう。
でも今は・・・。
「・・・とても大切な、仲間だよ。」
普段ならそんな台詞すらもなかなか言えないが、今はそう言わなければいけない気がした。
「大切な、仲間・・・。」
ネコ娘は自分に言い聞かせるように繰り返す。
すると、その虚ろな瞳に涙が滲んだ。
「・・・何か、とても悲しいことがあったような気がする・・・。」
「悲しい・・・こと?」
「思い・・・出せないけど・・・とても悲しい気持ち・・・。」
そう呟きながら、涙を流す。
「ネコ娘・・・。」
するとそこへ大勢の話し声と足音が聞こえてきた。
やがて部屋のドアが開き、他の部屋の住人や横丁の仲間が押し入ってくる。
「ネコ娘が記憶喪失って本当なのかい!?」
アマビエだ。
「一体何があったの!?」
心配そうに眉を寄せるのはろくろ首。
他の連中も同じようにがやがやと喚いている。
ネコ娘はその様子をぼーっと見つめていた。
「ネコ娘!アタイのこと、本当に覚えてないのかい!?」
アマビエが詰め寄る。
「一緒によく
アルバイトしたじゃない!ネコちゃん!」
ろくろ首も悲しげにそう訴える。
「ごめんなさい・・・。見覚えがあるような気はするんだけど・・・・。」
ネコ娘は申し訳なさそうにそう答える。
そんなネコ娘の姿に、その場の全員が落胆する。
するとそこへ砂かけ婆が戻ってきた。
「これ、お前たち!!怪我人に何をしておる!!」
そう一喝し、横丁のメンバーを部屋の外へ追いやる。
「まったく・・・。」
「あの人たちは・・・?」
呆れている砂かけ婆にネコ娘が尋ねる。
「あやつらは横丁に住む妖怪たちじゃよ。」
「そうですか・・・。」
「さ、薬を飲んで少し眠るんじゃ。」
砂かけ婆はそう言って、ネコ娘の身体をゆっくりと起こし薬を飲ませた。
一連の出来事を、鬼太郎はただ黙って見つめていた。
「鬼太郎、まずは怪我を治すことが先決じゃ。
記憶についてはそれから考えるしかない。」
ネコ娘の身体を寝かせながら、砂かけ婆は鬼太郎にそう言い聞かせる。
「・・・うん。父さんも井戸仙人に聞きに行ってくれてるし・・・。
でも、僕はどうしたら・・・。」
「お主はネコ娘にとって特別な存在のはずじゃ。
出来るだけ側にいてやるのがよかろう。」
(特別な存在・・・・。)
ネコ娘の気持ちを知らないわけじゃない。
自分を想って側にいることも。
何かと世話を焼き、文句を言いながらも嬉しそうに身の回りのことをやってくれる。
その表情はコロコロと変わり、見ていて飽きない。
持ち前の器用さで人間界にも溶け込み、妖怪による事件をいち早く知らせてくれる。
それもすべては鬼太郎を想ってこそだ。
鬼太郎にとっても大切な仲間ではあるが、長年こうして側にいたせいなのか、
異性として意識したことはない。
しかしネコ娘は違ったのだろう。
(僕は・・・ネコ娘の想いに、甘えていたんだな・・・。)
こんなことにならなければ気付かないなんて。
これは神様からの試練なのだろうか。
「少し眠らせるから、今日のところは帰るがよい。」
「・・・わかった。またくるよ・・・。」
立ち上がりネコ娘の顔を見るが、当のネコ娘は相変わらず半分しか開いていない目で天井を見つめていた。
目を合わせてくれないことに寂しさを覚えたが、鬼太郎はそのまま部屋を出た。


その日の夕方、自宅で一人待つ鬼太郎の元に井戸仙人のところから目玉おやじが帰ってきた。
「父さん!何か方法は見つかりましたか!?」
「うむ、一先ず薬をもらってきた。」
そう言って、背中に背負っていた瓶を下ろす。
「これは・・・?」
「この薬を飲むと、過去の強い思いが呼び起こされるそうじゃ。
そこから記憶が戻ればいいんじゃがのぅ・・・。」
「じゃあ、怪我がよくなったら試してみましょう。」
それから一週間、鬼太郎は毎日ネコ娘の元を訪れた。
人間なら、回復までに時間もかかるところだが、そこは生命力の強い妖怪。
怪我もだいぶよくなってきたようで、起き上がれるまでになっていた。

「ネコ娘、この薬を飲んでみないかい?」
そう言って、井戸仙人からもらった薬の瓶を
取り出した。
「これは?」
「これを飲めば、記憶が戻るかもしれないんだ。」
「・・・わかりました。」
ネコ娘は少し考えてから、瓶を受け取る。
そして恐る恐る口をつけると、不味いのか一瞬顔を歪めるが一気に飲み干した。
「・・・・・。」
「・・・ネコ娘?」
少し眉を寄せたまま黙っているネコ娘を、鬼太郎が心配そうに見つめる。
すると、大きな瞳からポロポロと涙が溢れる。
「ネコ娘!?」
突然涙を流すネコ娘にびっくりして、鬼太郎は慌てた。
「ふっ・・・くっ・・・イヤ・・・イヤァーーーーー!!!」
慌てる鬼太郎をよそに、ネコ娘は泣き叫び頭を抱えてしまった。
「ネコ娘!ネコ娘!!」
あまりにも悲痛な姿に、鬼太郎はただ名前を呼ぶしかなかった。
するとネコ娘はそのまま気を失ってしまった。
「何事じゃ!?」
ネコ娘の叫び声を聞いて、砂かけ婆が急いでやってきた。
「お婆・・・。」

とりあえずネコ娘を布団に寝かし、鬼太郎は薬の事を話した。
「・・・う~む、ネコ娘にとっての強い思いは、どうやら辛いものだったようじゃの。」
「・・・・。」
鬼太郎は、濡れた睫毛を伏せて眠るネコ娘の顔を見つめる。
「思い出すきっかけになればいいがのぅ・・・。」
そう言って、砂かけ婆もネコ娘を見つめる。

それから少しして、ネコ娘の瞳がゆっくりと開いた。
「おぉ、気がついたか!」
「ネコ娘・・・?」
鬼太郎と砂かけ婆の顔を見つけ、ネコ娘は視線を上げた。
「私・・・。」
「辛いかもしれんが、何を思い出したか話せるか?」
砂かけ婆は優しく語りかける。
「・・・・わからない。でも、鬼太郎さんと
女の子が見えたんです・・・。
私はそれを見ていた。
そうしたら、急に胸が苦しくなって・・・寂しくて、悲しくて、
動けなくなって・・・うっ・・・くっ・・・。」
そこまで言うと泣き出してしまう。
「もうよい。すまんかったなぁ・・・。少し眠るといい。」
砂かけ婆にそう言われ、ネコ娘は再び目を閉じた。
「鬼太郎、ちょっと来てくれ。」
それだけ言って、砂かけ婆は立ち上がり部屋を出る。
鬼太郎もそれに続いた。

向かったのは砂かけ婆の自室だった。
部屋に入ると座るように促された。
そして、砂かけ婆は静かに語りかける。
「・・・鬼太郎、ネコ娘がお主を好いていることは知っておるな?」
「・・・。」
有無を言わさぬ雰囲気に、鬼太郎は黙って頷く。
「おそらく『女の子』というのは華ちゃんのことじゃろう。
お主、随分と気にかけておったようじゃからのぅ。」
 「それは!閻魔様から守るように・・・言われて・・・。」
ちくりと指摘されて、咄嗟にそう言い返す。
「本当にそれだけか?お主自身、あの娘を好いておったのではないか?」
「っ・・・!」
更に核心に迫られて、鬼太郎は黙ってしまう。
「お主を責めているわけではない。誰かを想うのはお主の自由じゃ。」
「僕はっ・・・別に・・・。」
「じゃが、お主にとって本当に大切なのが誰なのか、考えたことはあるか?」
「僕にとって大切な・・・。」
「わしはネコ娘が可愛いからの。あの娘が悲しむ姿は見とうない。
おそらくネコ娘は、お主のためなら命すら捨てるじゃろう。
それほどまでに深い愛情をお主に向けておるんじゃ。
お主はあの娘が嫌いか?」
「嫌いなわけないじゃないか!」
「ではあの娘は、お主にとってただの仲間か?」

仲間。

今までずっと、もう気が遠くなるほどの年月を仲間として過ごしてきた。
「・・・僕には・・・わからないよ・・・。」
もしもネコ娘が居なくなってしまったら。
きっと間違いなく悲しい。
だが、それがどんな悲しみなのか鬼太郎にはわからなかった。
「とにかく、ネコ娘の記憶を戻すためにはお主の力が必要じゃ。」
「わかってる。ネコ娘の記憶は必ず取り戻すよ!」

それから一週間。
ネコ娘は歩けるまでに回復していた。
「ネコ娘!」
「あ・・・鬼太郎さん・・・。」
長屋の前の縁台に腰掛けていたネコ娘を横丁の仲間が囲んでいるところへ、鬼太郎がやってきた。
「歩けるようになったんだね、よかった。」
「あ・・・ありがとうございます。」
笑いかける鬼太郎にネコ娘はそう言うが、決して目を合わせようとはしない。
「・・・ネコ娘、どうして僕を見ないんだい・・・?」
いつもなら、鬼太郎の姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくるところだが、
今はまったく別人のようだった。
鬼太郎は見たことのないネコ娘に不安を覚える。
「・・・ごめんなさい・・・。あなたを見ると悲しくなってしまって・・・。」
「!!」
ネコ娘が自分を避けている。
鬼太郎の胸に小さな棘のようなものが刺さる。
「ネコ・・・娘・・・。」
「ネコ娘を邪険にするからさ。もっと優しくしてやってればよかったのに。」
呆然としている鬼太郎に、そう言い放ったのはアマビエだった。
本気で怒っている訳ではない。
しかし、今の鬼太郎には酷く痛い言葉だった。
「確かに、鬼太郎はネコ娘に対しては何故か冷たかったよなぁ~。」
思い出すようにそう言ったのはカワウソだ。
それを聞いてネコ娘は眉を寄せ、
「私、鬼太郎さんに嫌われてたんですか・・・?」
と、寂しげな表情を見せる。
「ちっ・・・違うよ!!嫌いなんかじゃ・・・!!」
心外だった。
嫌っているなんて。
寧ろ大切に思ってきたつもりだった。
鬼太郎は言いようのない感情に襲われ、その場にいることができなくなった。
そのままくるりと
背中を向け、走り去った。
「鬼太郎さん・・・。」
ネコ娘は遠ざかる鬼太郎の背中をただ見つめていた。

(そんなふうに周りから見られていたなんて・・・。)
横丁を飛び出した鬼太郎は、気づけばゲゲゲの森を歩いていた。
「鬼太郎?」
ふいに声をかけられ、顔を上げるとそこには蒼坊主の姿があった。
「蒼兄さん・・・。」
元気のない鬼太郎を連れ池の畔までくると、並んで腰を下ろした。

「ネコちゃんが記憶を・・・・。」
鬼太郎は、ネコ娘が妖怪退治の際に頭を打ち記憶をなくしてしまったこと、
そして鬼太郎を避けていることをぽつりぽつりと話した。
「僕、そんなにネコ娘に冷たかったかな・・・。」
膝を抱えて呟く。
「まぁ、そうかもな。」
「え・・・?」
否定してくれると思っていた鬼太郎は驚いた。
「お前、ネコちゃんが自分から離れていくわけがないと思ってないか?」
「っ・・・!!」
図星だった。
自覚はなかったがこうなって初めて気付いた。
「お前は、ネコちゃんの献身的な愛情と我慢強さに甘えてたんだ。」
「っ!!」
言われて腹が立つのは当たっているからだ。
「今は追いかけられているからわからないかもしれねぇ。
だけど、お前がいつまでもそのままだったら、いつかはネコちゃんだって離れていくかもな。」
「ネコ娘が・・・。」
蒼坊主にとって、鬼太郎とネコ娘は弟と妹のような存在だ。
二人には幸せになってほしい。
鬼太郎はただでさえ鈍いところがある。
だからこそ敢えてキツイ言葉を選んだ。
「なぁ鬼太郎、少し自分と向き合ってみたらどうだ。」
「・・・うん。考えてみるよ。ありがとう、蒼兄さん。」
まだ落ち込んではいるが、蒼坊主の自分を思っての言葉に鬼太郎は素直に感謝した。

それから一週間はネコ娘に会いにいかなかった。
自分の気持ちを確かめようと思ったのだ。
しかし、鬼太郎が自宅に籠っている間に事態はとんでもない方向へと進んでいた。

「・・・これは・・・。」
「・・・どうしよう・・・・。」
そう小声で話すのはアマビエとかわうそ。
そして二人の前ではネコ娘と黒鴉が楽しそうに話している。
「なんでまたこういうときに限って鬼太郎はこないんだい!?」
「そんなことオレに言われても・・・。」
それは鬼太郎がこなくなってすぐのことだった。
たまたま用事があって横丁を訪れた黒鴉はネコ娘のことを聞いた。
するとそれから毎日ネコ娘の元へと通うようになったのだ。

「ネコ娘殿、今日来る途中に見つけたのですが、よろしければ・・・。」
そう言って手渡したのは美しい花々。
「わぁ・・・、ありがとうございます、黒鴉さん。」
ネコ娘はそう言って嬉しそうに微笑む。
(記憶をなくしていても、やはりネコ娘殿の笑顔は美しい・・・。)
ネコ娘の笑顔を見て、一人胸の中でそんなことを考えていると、
ネコ娘は少し恥ずかしそうに口を開いた。
「あの、黒鴉さん・・・。いつも会いにきてくださって、ありがとうございます。
私、黒鴉さんにお会いできるのがすごく楽しみなんです・・・。」
そう言って頬を染める。
「!!??」
その場にいる全員が驚いた。
「まさか・・・・」
「これはマズイんじゃ・・・・。」
心配するアマビエとかわうそをよそに、黒鴉は感激しているようだった。
「ネコ娘殿・・・!!私は、ネコ娘殿が望むのならばいつでも駆けつけます!!」
「黒鴉さん・・・・。」
見つめ合う二人。
しかし周りの横丁メンバーは気が気じゃない。
「かわうそ!!鬼太郎の家に行くよ!!」
「お・・おぅ・・・。」

蒼坊主のアドバイスを受けてから、鬼太郎は考えていた。
そして、毎日のように訪れていたネコ娘がこないことに寂しさを覚えていた。
(・・・僕は・・・ネコ娘のことを・・・。)

「鬼太郎~~!!!!」
突然甲高い声で呼ばれたと思ったら、
すごい勢いで筵を捲りアマビエがかわうその首根っこを掴んで入ってきた。
「アマビエにかわうそ、どうしたんだい??」
「鬼太郎!!このままでいいのかい!!??」
「え??」
いきなり怒鳴られて、鬼太郎はきょとんとしている。
「このままだとネコ娘と黒鴉が・・・・。」
困ったような顔でかわうそが呟く。
「ネコ娘と黒鴉さん!?」
「そうだよっ!鬼太郎!黒鴉にネコ娘を取られてもいいのかい!?」
「・・・どういうことだい・・・?」
取られる。
そう聞いた鬼太郎の胸に、何かどす黒いものが生まれた。
「とにかく一緒にくるんだよっ!!」
そう息巻くアマビエに引っ張られるようにして、鬼太郎は横丁へと向かう。
(・・・・ネコ娘を取られる・・・・?)
そう考えれば、胸の奥がチクリと痛む。

やがて横丁の長屋が見えてくる。
そこには並んで座るネコ娘と黒鴉。
その顔はほんのり赤い。

「ネコ娘!!」
なぜか声を掛けずにはいられなくなり、咄嗟に名前を呼んだ。
「・・・鬼太郎・・・さん?」
「鬼太郎殿・・・。」
怒りなのか、悲しみなのか、自分でもわからない感情に襲われた鬼太郎の表情に、
ネコ娘と黒鴉は驚いている。
鬼太郎は静かにネコ娘に近づくと、その両肩を掴んだ。
「!?」
「・・・ネコ娘、本当に僕を思い出せないのかい・・・?」
そう訴える声は震えていた。
「・・・・ごめんなさい・・・・。」
まっすぐに見つめてくる鬼太郎の視線をかわし、ネコ娘はそう答えた。
「・・っ!!」
ネコ娘の言葉を聞き、鬼太郎は項垂れた。
「鬼太郎殿・・・、ここはしばらく私に任せてはくれませんか?」
それまで黙って見つめていた黒鴉が、そう切り出す。
「・・・・・・。」
鬼太郎は何も言うことができなかった。
「・・・ネコ娘殿、少し散歩に出掛けませんか?」
鬼太郎の姿があまりにも痛々しく、
どうしていいかわからないという様子のネコ娘に黒鴉は静かにそう言う。
「・・・はい。」
ネコ娘はそう返事をすると、黒鴉に手を引かれ立ち去った。
「・・・・・っ!!」
鬼太郎は自分の感情を
抑えるのに必死だった。
ただ俯き、歯を食いしばっていた。
アマビエとかわうそは、どう声を掛けていいかもわからず、ただただ見つめるしかなかった。
「・・・・アマビエ、かわうそ、教えてくれてありがとう・・・。」
鬼太郎はそう呟くと一人ゲゲゲの森へと帰っていった。
「・・・鬼太郎・・・。」
アマビエとかわうそは、鬼太郎の寂しそうな後姿を見つめていた。

ゲゲゲの森を歩きながら、鬼太郎は考えていた。
(・・・・僕は、ネコ娘を誰かに取られて悔しいのか?
・・・・ネコ娘は僕のものじゃないのに・・・・?
僕は・・・・ネコ娘のことを・・・・。)
いつも、どんなときも側にいてくれたネコ娘。
なんだかんだと世話を焼いてくれていた。
でも、これから先ネコ娘が世話を焼くのは自分じゃないかもしれない。
あの笑顔も、怒った顔も、恥ずかしそうに俯く姿も、全部自分に向けられていた。
いつだって自分だけを想ってくれていた。
自分は自分なりにネコ娘を大切に思ってきたつもりだった。
だけど違ったのかもしれない。
人間の
女の子に見惚れても、それは結局その時だけ。
人間は脆い。
だから守らなくてはいけない。
ネコ娘は妖怪だ。
人間ほど弱くない。
だけどネコ娘も女の子なのだ。
それを、自分は本当にわかっていたのだろうか?
そんな自問自答を繰り返していると、突如妖怪アンテナが激しく反応した。
「妖気!?」
(どこだ・・・・!?)
あたりを見回し妖気を探る。
すると、
「キャァーーーーーー!!!!」
という悲痛な悲鳴が聞こえた。
「ネコ娘!!??」
聞き間違えるはずがなかった。
鬼太郎は悲鳴の聞こえたほうへ全力で向かった。

森を進み少し開けた場所に辿り着くと、そこには巨大な妖怪と対峙する黒鴉の姿。
その後方には怯えるネコ娘がいた。
「黒鴉さん!!!」
「っ!鬼太郎殿っ!!」
敵の攻撃を両腕で抑えながら、黒鴉が鬼太郎を見る。
「黒鴉さん!離れてください!!」
そう言われ、黒鴉は俊敏な動きで敵から逃れた。
「くらえ!!髪の毛針ーーー!!!」
敵の大きな目を狙い、鬼太郎は髪の毛針で攻撃する。
突然の攻撃に驚いた敵は、避ける間もなく鬼太郎の髪の毛針をくらう。
「グアァァァーーーー!!」
鬼太郎は目を抑えて苦しんでいる敵に向かって
下駄を飛ばす。
リモコン下駄!!」
鬼太郎の放ったリモコン下駄は見事に命中し、敵は倒れこむ。
そんな様子を離れてみていたネコ娘は何かを思い出そうとしていた。
(・・・私・・・前にもこんな・・・・。)
戦いに挑む鬼太郎の姿、それはネコ娘が幾度となく見つめてきたもの。
(私は・・・・いつも・・・こうやって見てた・・・の・・・?)
必死に自分の記憶を呼び起こそうとするネコ娘に、黒鴉が声を掛けた。
「ネコ娘殿、ここは危険です!あちらへ逃げてください!」
敵の攻撃で負傷したのか、少し辛そうな黒鴉がネコ娘に訴える。
「黒鴉さん・・・。いえ!私はここにいます!
・・・なぜだかわからないけど、ここにいなくちゃいけない気がするんです・・・。」
「ネコ娘殿・・・・。」
その目には強い決意が感じられる。
黒鴉はそれ以上何も言えなかった。
「グオォォーーーー!!」
「霊毛ちゃんちゃんこ!!
リモコン下駄の攻撃から体勢を立て直した敵を、鬼太郎はちゃんちゃんこで包んだ。
敵は身動きが取れずにもがいている。
すると鬼太郎はネコ娘の元までやってきた。
「ネコ娘、大丈夫かい?」
そう声を掛けられて、ネコ娘は不思議な感覚に囚われる。
(前にも・・・こんなことがあったような・・・。)
「ネコ娘?」
答えないネコ娘を不思議そうに鬼太郎が見つめている。
すると、鬼太郎越しに向こうを見たネコ娘が驚きの表情を見せた。
「危ないっ!!!」
そう叫んだかと思うと、ネコ娘は鬼太郎を横へ突き飛ばした。
「っ!!??」
「ネコ娘殿っ!!」
黒鴉の叫び声を聞き、鬼太郎が目を開けると後ろから迫ってきた敵が、
ネコ娘に体当たりしていた。
「ネコ娘っ!!!」
軽々と吹っ飛ばされたネコ娘に追い討ちをかけるように、敵が猛然と突進する。
鬼太郎はそれを必死に追いかけ、敵の身体にしがみつく。
「体内電気ーーーーー!!!!」
渾身の力を込めて体内電気をお見舞いすると、敵は断末魔をあげ崩れ去った。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
鬼太郎は敵の身体から離れ、すぐにネコ娘の元へと駆けつける。
「ネコ娘!!」
横向きに倒れているネコ娘の身体を鬼太郎が抱き上げる。
「・・・よかった・・・無事で・・・。」
ネコ娘は、弱弱しい笑顔でそう呟く。
「よくないよっ!!どうしてあんな無茶を・・・・っ!!」
「鬼太郎を・・・守る・・・。それが、あたしの・・・」
そこまで言って、ネコ娘は意識を失った。
その後、負傷した黒鴉と、気を失ったネコ娘を抱えた鬼太郎は、妖怪長屋へと帰ってきた。
砂かけ婆に部屋を用意してもらい、ネコ娘を横にする。
黒鴉は、砂かけ婆から
治療を受けるため別室へ通された。
鬼太郎は離れることなく、ネコ娘の側にいた。
少しして、ネコ娘の瞳がゆっくりと開いた。
「っ!!・・・ネコ娘・・・・?」
そう名前を呼ばれてゆっくりと視線を上げれば、そこには心配そうに自分を覗き込む鬼太郎の顔。
「・・・あたし・・・。」
「・・・ネコ娘、今の君に言っても仕方がないかもしれない・・・。
だけど、僕の気持ちを聞いてくれないか?」
思い詰めたような鬼太郎の口調に、ネコ娘はただ黙って耳を傾ける。
「僕は、君の想いに甘えていた・・・。
君が誰かに取られるなんて、考えてもみなかったんだ・・・。
君が記憶を失くして初めて気づくなんて・・・・僕は愚かだよね。」
ネコ娘・・・、今まで・・・ごめんよ。
これからは、また君に傍にいてもらえるように努力するよ。」
いつもの鬼太郎からは想像できないくらい饒舌だった。
しかし、その言葉に一切の嘘は見られなかった。
そんな鬼太郎の告白を聞いて、ネコ娘は涙を流した。
「・・・ネコ・・・娘・・・?」
泣かせるようなことを言ったつもりがない鬼太郎は、怪訝そうな顔で覗き込んでいる。
「・・・・ありがとう・・・、鬼太郎・・・・。」
「いや・・・、僕こそ・・・ごめん・・・
ん?・・・ネコ娘・・・、僕のこと・・・鬼太郎って・・・。」
記憶を失くしてからは「さん」を付けて呼んでいたはずだった。
なんとも間の抜けた顔できょとんとしている鬼太郎に、ネコ娘が申し訳なさそうに呟く。
「・・・・記憶・・・・、戻った・・・みたい・・・。」
「・・・・・・え?えぇ~~!!??い・・・いつから!?」
「・・・さっき、鬼太郎を庇って飛ばされたとき・・・かな?」
「・・・・・!!??」
鬼太郎は真っ赤になって後ろを向いてしまった。
その姿がなんだか可愛くて、ネコ娘はついクスリと笑ってしまう。
しかし、同時にさっきの言葉を思い出し、嬉しさがこみ上げる。
ネコ娘は鬼太郎のちゃんちゃんこの裾を遠慮がちに掴んだ。
「!?」
それにびっくりした鬼太郎が、顔だけこちらを振り返った。
「・・・・さっきの言葉、信じて・・・いいんだよね・・・?」
「あ・・え・・と、・・・・・・・ぅん・・・・。」
最後は消え入るように頷いた。
「・・・・・・・・鬼太郎・・・、嬉しいっ・・・・。」
鬼太郎の素直な返事に、ネコ娘
布団から起き上がり、背中から抱きついた。
「わっ!?ネ・・・・ネコ娘・・・っ!?」
「ぅっ・・・ひっく・・・きた・・・ろ・・・っ・・・!!」
「・・・・・ネコ娘・・・。」
背中で泣いているネコ娘の手を、鬼太郎はそっと包んだ。
「っふ・・・・きたろ・・・・、好き・・・大好き・・・。」
耳元で聞こえるその愛の囁きに、鬼太郎の
心臓が跳ねる。
すぅっと顔を後ろに向けると、ネコ娘も顔を寄せる。
互いの熱い頬が触れあい、唇が近づく。
すると、ネコ娘がゆっくりと瞼を閉じた。
鬼太郎はそれを確認すると、ネコ娘の唇に視線を落とした。
まるで引かれ合うように互いの唇が近づいていく。


が、

バターーーンと、けたたましく襖が倒れてきた。
ビックリした二人は慌てて襖に目を向けた。
すると、倒れた襖の上には長屋の住人たちが・・・。
「・・・・・・あ、あはは・・・ネコ娘の記憶・・・戻ったんだねぇ!!」
頭を掻きながらわざとらしくそう言ったのはアマビエだった。
「いや~、よかった、よかった!!」
それに便乗したのはかわうそ。
そんな中、当の鬼太郎とネコ娘は呆然としていたが、
「じゃ、じゃあ、あたいたちはこの辺で~・・・。」
と、アマビエを筆頭に住人たちがそろりと立ち去ろうとしたところ、
なにやら恐ろしく殺気立った妖気が流れてきた。
「・・・・・・・・・。」
流れを辿ってみれば、そこには黒い影を背負った鬼太郎。
「ヒッ!!!」
恐怖に引きつった顔で声を上げたのはかわうそだった。
「・・・・に・・・逃げろ~~~!!!!」
誰の号令か、住人たちは一気に散っていった。
「・・・・・ぷっ。」
「・・・・ハハッ。」
「アハハハハ!!!」
残された二人は急にこみ上げてきた笑いを堪え切れなかった。
どちらからともなく腹を抱えて笑い出した。
「あは・・・あははっ・・・もうっ!みんなホントに相変わらずなんだから!」
そう言って笑うネコ娘の笑顔は、鬼太郎にとって久しぶりのものだった。
「・・・・ネコ娘、おかえり。」
「え?・・・あ・・・、ただいま、鬼太郎!心配かけてごめんね!」
そう眩しいほどの笑顔で謝るネコ娘だったが、鬼太郎は浮かない顔だった。
「いいんだ・・・。でも、これから先が心配だな・・・・。」
「・・・・どうして?」
「・・・だって・・・・もし、黒鴉さんとか・・・・他の誰かに・・・・。」
「!!」
鬼太郎がヤキモチを焼いている。
初めて見る鬼太郎の態度に、ネコ娘の胸が高鳴る。
不安そうな鬼太郎の手に、ネコ娘は優しく自分の手を重ねた。
「あ・・・っ!」
「鬼太郎・・・、大丈夫。あたしはず~っと鬼太郎が・・・好き・・・だから。」
「ネコ・・・娘・・・・。」
正面切っての告白に、お互い照れてしまう。
「・・・あ、でも華ちゃんは・・・・?」
ふと思い出したように、ネコ娘が尋ねる。
「え?あぁ、彼女には別れの挨拶もできなかったからね。それが心残りだっただけだよ。」
そう言って、鬼太郎は笑った。
「・・・ホント?」
「本当だってば。」
「ん~~、ホントにホントかなぁ・・・?
鬼太郎ってば、カワイイ女の子見るとす~ぐ見惚れちゃうしぃ~・・・。」
そう言って唇を尖らすが、鬼太郎はいつものネコ娘が見られてホッとしていた。
「じゃあさ、信じられないならさっきの続き、する?」
「さっきの・・・・?にゃっ!!??」
雰囲気に呑まれてキスしそうになっていたのを思い出すと、ネコ娘は真っ赤になった。
いつものネコ娘が見られて安心した鬼太郎は、ネコ娘をからかうのを楽しむように笑う。
「んもぅ!鬼太郎の・・・ばかぁ・・・!」
自分の気持ちに気づいた今は、そんなネコ娘の表情も愛おしかった。
鬼太郎はスッと真っ赤な耳に顔を近づけて、小さく囁いた。
「じゃあ、信じてくれるね・・・?僕は、君が好きだよ。」
耳元で囁かれて、ネコ娘はこれ以上ないくらいに真っ赤になってしまった。
そして小さく頷いた。
「よかった。さぁ、お婆も心配してるよ!記憶が戻ったって報告しに行こう!」
鬼太郎はそう言って、ネコ娘の手を取り立ち上がらせた。
「う・・・うんっ!!」
いつもの鬼太郎の姿に、ネコ娘は元気を取り戻した。


鬼太郎を忘れてしまったことは辛いけど、そのおかげで気づいてもらえたんだもの。
きっとこれでよかったんだよね?
ねぇ、鬼太郎。
誰かに取られるなんて、心配しなくていいよ。
あたしには、今も昔もこれから先も、鬼太郎しか見えないんだから・・・。

 

 

 

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