人間界でのバイトを終え、ネコ娘はゲゲゲの森へと歩いていた。
辺りはすっかり日も暮れて、空には小さくも美しい星たちが瞬いていた。
「今日は晴れてよかったなぁ・・・。」
そう一人呟いて、いつものようにあの家へ向かう。
「きたろ?」
「やぁ、お疲れさま。」
筵を捲り中に入れば、穏やかな労いの言葉。
ただそれだけのことが嬉しくて、ネコ娘は自然と笑顔になる。
「これ、お土産。」
そう言ってちゃぶ台に手土産を置けば、悪いね、と笑顔を見せてくれる。
「いいのよ。それよりおやじさんは?」
見ればいつもの茶碗は伏せてあり、その姿は見当たらない。
「父さんならお爺のところで呑んでるよ。」
お茶を入れながら、鬼太郎は眉を下げる。
「そっか・・・。ねぇ鬼太郎、少しだけ星を見ない?」
「星?」
「うん。今日は七夕だから・・・。」
そう言って、何故か寂しそうに笑う。
「・・・うん。」
外に出て窓側へと回り、壁に寄りかかるように二人は座る。
見上げれば夜空いっぱいに星が輝いている。
「今日は会えたのかな・・・?」
空を見上げたまま、ネコ娘が呟いた。
「あぁ、今日は晴れてるし、会えたんじゃないかな。」
ネコ娘の目線を追うように、鬼太郎も空を見上げる。
「一年に一度しか会えないなんて、可哀想・・・。」
「・・・そうだね。」
「でも、あの話ってきっと、幸せに慣れちゃいけないって教えてくれてるんだよね。」
「あぁ、お嫁に行ったらを機織りをやめちゃったって話?」
「うん。・・・あたし、幸せなんだよね。」
相変わらずネコ娘は空を見上げたまま、まるで自分に言い聞かせるように言う。
「・・・ネコ娘がそう思うなら、幸せなんじゃないかな?」
そう言われて鬼太郎の顔を見るが、その横顔は前髪に隠されて見えない。
しかしその言葉は穏やかで優しい。
「・・・うん。」
ネコ娘は短く返事をして、視線を空に戻す。
しばらく二人は星を眺めていた。
聞こえるのは虫たちの声だけ。
やがてネコ娘が静かに口を開いた。
「・・・ねぇ鬼太郎、あたし、ずっと鬼太郎の傍にいたいよ・・・。」
そう寂しげに、甘えるように呟く。
「・・・君がそう望むなら、きっと叶うよ。」
鬼太郎はただ優しく受け入れる。
素っ気ないけど優しい幼馴染。
そんな鬼太郎が、ネコ娘は好きだと再確認する。
「・・・・うん。」
そう短く返事をして、鬼太郎の肩にそっと頭を乗せた。
流れ星に願うのはただ一つ。
『ずっとずっと、傍にいられますように・・・。』
終