恋のサプリメント

その日、ネコ娘は朝から頭痛に悩まされていた。

「あ~、頭痛い・・・。」
片手で頭を抑えながら、妖怪長屋へ向かって歩く。
やがて長屋へと辿り着き、
「おばば~?」
と、中へ呼びかけてみるが返事はない。
「あ、そっか、今日は朝から長屋の皆で温泉だって言ってたっけ・・・。」
いつもなら軒先の長椅子には誰かしらいて賑やかなものだが、今日はがらんとしている。
「え~っと薬、薬っと・・・。」
主の砂かけばばあが居らずとも、薬がどこにあるかくらいはネコ娘にもわかっていた。
「おばばには帰ってきてから言えばいいよね。」
と一人呟きながら、薬を探す。
「あった。」
いつも飲んでいる砂薬を紙に掬い、さらさらと水で流し込む。
「ふう、おばばの部屋で少し休ませてもらお・・・。」
頭痛がひどかったネコ娘は、部屋に辿り着くとすぐに眠りについた。


「ん・・・。」
目を覚ましたのは夕方だった。
「ふぁ~、よく寝た。」
どうやら頭痛はだいぶ治まったようだ。
一つ大きくのびをすると、腕が突っ張る感じがした。
「?」
不思議に思って腕を見てみると、
「何これ!?」
なぜか寝ている間に
ブラウスの袖が縮んでいる。
だが異変はそれだけではなかった。
スカートも短くなり、胸の部分も窮屈そうだ。
おまけにショートカットの髪は腰の下まで伸びていた。
パニックになりながらも必死に鏡台に駆け寄り、恐る恐る鏡に掛けてある布を捲る。
「!!??」
鏡に写ったのは自分ではなかった。
服は自分のものだが、顔の輪郭はスッとしていて、
胸も自分とは比べ物にならないくらいたわわに膨らみ、腰にかけては美しいくびれができている。
ゆっくり立ち上がってみると、足もスラッとした大人のものだった。
しばらく自分の
全身をぼーっと眺めていたが、やがてハッとする。
「もしかしてさっきの薬、頭痛薬じゃなかったの・・・?」
サーッと血の気が引く。
「どっ、どうしよう!おばばは明後日まで帰ってこないのに!!」
一人バタバタしていたが、
「そうだ!おやじさんに相談してみよう!」
そう考え、目にも留まらぬスピードで走り出した。
あまりにも服がピッタリすぎて、誰かに会うのが恥ずかしかった。
そのため、なるべく木々の間に身を隠しながら進んだ。
やがて鬼太郎と目玉おやじのいる、ゲゲゲハウスまでやってきた。
しかし、いざとなると鬼太郎にこの姿を見せるのが恥ずかしくなって、
なかなか中に入れずにいた。

しばらくうろうろして、
(このままここにいても仕方ないし・・・、よし!女は度胸!!)
と覚悟を決め、筵の前までやってきた。
「・・・鬼太郎・・・?」
おずおずと声をかけると、
「ネコ娘?どうしたんだい?」
と返事が返ってくる。
「おやじさん、いる?」
「父さんはおばばたちと一緒に温泉に行ったけど。」
「えぇ~!?」
頼みの目玉おやじは留守だった。
どうしようかと悩んでいると、
「入らないのかい?」
と言われてしまった。
「・・・あの・・、びっくり・・しないでね・・・。」
「?・・・うん。」
それを聞いたネコ娘は、意を決して中に入る。
「!!??」
ネコ娘の姿を見た鬼太郎は言葉を失っている。
「鬼太郎・・・、どうしよう・・・。」
鬼太郎の顔を見て少しホッとしたのか、急に涙が溢れてきた。
鬼太郎は立ったままぽろぽろと涙を流しているネコ娘を見て、とりあえず座らせた。
そして、落ち着くからとお茶を飲ませた。
ネコ娘は差し出されたお茶を黙って飲むと、多少落ち着いたようだった。

「・・・で、一体何があったんだい?」
鬼太郎はできるだけ優しく話しかける。
するとネコ娘も、ぽつりぽつりとここまでの経緯を話し出した。

「う~ん・・・とりあえずおばばが帰ってくるのを待つしか・・・。」
話はわかったが、鬼太郎にもどうしたらいいかなどわからなかった。
「そう・・・だよね。」
泣きやんだものの、未だ落ち込んでいるネコ娘をふと見やる。
いつもの可愛らしい横顔は、涙に濡れた長い睫毛が妙に艶っぽい。
唇もいつもより厚みを帯びていて、完全に大人のそれだ。
見ているうちに顔が熱くなり、鼓動も高鳴る。
(・・・何を考えてるんだ、僕は・・・。)
そんなふうに考えていると、ネコ娘が横目でちらっと鬼太郎を見てきた。
「・・・恥ずかしいから、あんまり見ないでよぉ・・・。」
「ごっ、ごめん!!」
頬を染め恥じらう姿に、鬼太郎は完全に参ってしまった。
「それにしても、なんの薬だったのかなぁ・・・。」
まだほんのり頬は赤いが、少し冷静になってきたネコ娘はそう口を開く。
「えっ!?あぁ、そうだね・・・おばばのことだから、
また若返りの薬とかを作ってたんじゃないかな?」
動揺を悟られまいと、普通を装う。
「う~ん、でも、若返りの薬だったら小さくなるだろうし・・・。」
と言いながら、ネコ娘が自分の胸を見下ろすと、つられて鬼太郎も視線を落とす。
ハッとそれに気づいて、
「いにゃ~ん!見ないでよ~ぅ!!」
と、両腕で胸を隠しながら恥じらう。
「みっ、見てたわけじゃ!!」
鬼太郎は必死に言い訳をする。
なんだか調子が狂う。
目の前にいるのは確かにネコ娘なのだが、
姿が大人になっただけでこんなに動揺してしまうことに、鬼太郎は困惑していた。

「・・・、結局、おばばが戻ってくるのを待つしかないんだね。」
鬼太郎が一人悩んでいると、ネコ娘は諦めたようにそう呟いた。
「・・・そうだね。」
解決策が見つからない以上、待つしかない。
すると、ネコ娘はもじもじしながら何かを言いたそうにしていた。
「どうした?」
「あ・・・あのね、おばばが帰ってくるまで、ここにいちゃ・・・ダメ?」
こんな恰好じゃ出歩けないしと付け加え、困ったように眉を寄せ控えめに聞いてくる。
普段どちらかと言えば気が強いネコ娘が今日はやけにしおらしくて、
鬼太郎は戸惑いを隠せないでいた。
「か、構わないよ。」
鬼太郎の言葉に、パァっと明るい顔になる。
「ありがとう、鬼太郎!」
いつものネコ娘らしい笑顔に、鬼太郎は少しホッとした。
「ねぇ鬼太郎、お腹空かない?」
「あ、うん、そうだね。」
「じゃあ、あたし夕飯作るね!」
そう言っていそいそと夕飯の準備に取り掛かる。
しかし、次の瞬間、ネコ娘の後ろ姿を見て、鬼太郎は真っ赤になってしまった。
ワンピースがピッタリすぎてお尻の形がはっきりとわかる上に、
スラッとした脚線美に目を奪われた。
更に、少しでも前に屈めば、
下着が見えてしまいそうだ。
(これは反則だよ・・・。)
とは思いながらも目が離せない。

「ねぇ、鬼太郎?」
ふいに呼ばれて、鬼太郎は飛び上がる。
「なっ・・・なんだい?」
平静を装おうとするが、顔は真っ赤だ。
更にそれを見たネコ娘は血相を変えてこっちへ戻ってくる。
「ちょっと、どうしたの!?顔真っ赤だよ?熱があるんじゃ・・・。」
そう言って、額に手を充てる。
あまりの顔の近さに、鬼太郎は更に真っ赤になる。
「あ・・・ネ・・・ネコ・・娘・・・。」
その綺麗な顔を目の前にして、途切れ途切れに名前を呼ぶのが精一杯だった。
「大変!すごく熱いわ!鬼太郎、横になって!!」
熱があると勘違いしているネコ娘はさっさと布団を整えて、鬼太郎を寝かせてしまった。
「もう、具合悪いなら早く言ってくれればいいのに。」
そう言って、心配そうに鬼太郎の顔を覗き込む。
「・・・ごめん。」
違うと言ったところで、言い訳も思い浮かばない。
ならばいっそこのまま大人しくしていたほうがいいだろうと考えた。
「お粥なら食べれる?」
「あ、うん・・・。」
「じゃあ作るから待っててね。」
そう言って、ネコ娘はお粥を作り始めた。
鬼太郎は鼻まで布団を被り、ネコ娘の様子を見ていた。
(甲斐甲斐しいな・・・。)
性格が変わったわけではないのに、姿が変わっただけでひどく大人に見えた。

『ネコ娘を嫁にもらったらどうじゃ?』

突如、頭の中に父の言葉が浮かんだ。
(・・・もしもネコ娘が奥さんになったら、多分いい奥さんになるんだろうな。)
ブンブンと首を振りながら、そんな風に思うのはこの熱のせいだと自分に言い聞かせる。
しばらくすると、
「出来たよ!起きて食べれる?」
と、ネコ娘はお粥を持ってこちらへやってきた。
鬼太郎は起き上がり、茶碗を受け取ると熱々のお粥を口に入れる。
「あつっ・・・。」
「あ~あ、熱いから気をつけないと・・・、貸して。」

そう言って茶碗を受け取り、フーフーと冷まし始めた。
そして、
「はい、あ~ん。」
「!?」
「あ、・・・イヤだった?」
子首を傾げて少ししゅんとしながら聞いてくる。
「え、あ、いや、あの、イヤじゃ・・・ないよ・・・。」
今日はなんだかおかしい。
そうは思っても、なぜか拒否ができない。
言われるがまま口を開ける。
その後も結局、最後の一口まで食べさせてもらった。
ごちそうさまでした、と言うと、ネコ娘は嬉しそうに微笑んだ。
食器を片付けるネコ娘を見ながら、
(母親って、こういう感じ・・・なのかな。)
と考えていた。

その後しばらく話をしていたが、眠くなってきたのかネコ娘は目を擦り始めた。
「ネコ娘、眠いなら無理しなくていいんだよ?」
「うん、そろそろ寝るね。」
そう言って、その場に横になろうとした。
「ネコ娘、床は冷たいだろう?僕がそっちで寝るから、ネコ娘は布団使っていいよ。」
「えっ、いいよ!鬼太郎は体調が良くないんだから、ちゃんとお布団で寝なくちゃ!」
特に体調が悪いわけではない鬼太郎は少し考えて、
「・・・じゃあ、二人共布団で・・・寝る?」
自分で言っててだんだん恥ずかしくなってしまう。
その提案を聞いて、赤くなったのはネコ娘も同じだった。
「えっ・・でっ、でも・・・。」
うん、などとは言わないだろうと思った鬼太郎は、
「嫌なら僕は床で寝るよ?」
そう言えば断われないことを知っている。
「・・・わっ、わかったわよぅ・・・。」
渋々提案を受け入れるが、なかなかその場から動こうとしない。
「ネコ娘?こないのかい?」
「そっ、そう言われても・・・。」
ネコ娘はよっぽど恥ずかしいのか、なかなかこちらにこない。
時間も経ち、ネコ娘の姿にも慣れてきていた鬼太郎はちょっと悪戯してみたくなった。

「ネコ娘。」
名前を呼ばれて、反射的にこちらを向く。
そして、その大きな瞳を真っ直ぐ見つめ、
「・・・おいで、ネコ娘。」
と、妖しく誘う。
「!!」
そう言われて、ネコ娘は更に
固まる
「・・・ぷっ。」
それを見た鬼太郎はクスクスと笑い出す。
「あ~!!からかったのね!?」
途端にネコ娘は怒りだした。
そして怒りに任せてズカズカと布団に入ってしまった。
(・・・やれやれ。)
まだクスクスと笑っている鬼太郎に背を向けてはいるが、尖った耳は真っ赤なままだ。
「・・・おやすみ、ネコ娘。」
「・・・おやすみ・・・。」
かろうじて聞こえるくらいの声で返す。

お互い背中を向けていたが、温もりは確かに伝わってきてとても安心する。
少しして、規則正しい寝息が聞こえてくる。
それがとてもリズミカルに聞こえて、鬼太郎もいつしか眠りについた。

「ん・・・。」
翌朝、鬼太郎が目を覚ますと、目の前にネコ娘の顔があった。
寒いのだろう、身を丸め鬼太郎にぴったりとくっついている。
ネコ娘の温もりが心地よくて、鬼太郎は自分の腕を回しネコ娘を包み込む。
しかし、
「・・・!!」
鬼太郎はバッと目を開けた。
(・・・元に戻ってる・・・。)
鬼太郎はホッとしたような、ちょっと残念なような、複雑な気持ちになる。
「ネコ娘、起きて。」
「ん・・・きたろ・・・・、おはよ・・・。」
まだ寝惚けてはいても、その顔は幸せそうに微笑んでいた。
それを見て鬼太郎もなんだか心が温かくなる。
「ネコ娘、元に戻ってるよ。」
「ふぇ・・・?」
眠そうなネコ娘の布団を捲り、身体を支えて起こしてやる。
「ほら、髪も短くなってるし。」
「・・・ホントだ!よかったぁ・・・。」
心から安堵したその笑顔はいつものあどけない少女のものだった。
鬼太郎は今度こそホッとした。
「心配かけてごめんね。」
「気にしなくていいよ。それより早く戻れてよかったね。」
「うんっ!」
申し訳なさそうなネコ娘にそう言ってやれば、嬉しそうな笑顔を向けてくる。
「・・・やっぱり君はこの姿が似合ってるよ。」
鬼太郎は笑顔でそう言った。
しかし・・・
「・・・それって、あたしは大人になっても見れないってこと!?」

『200年程度の我慢』
いつだったか目玉おやじが言ってのけた言葉。
鬼太郎にしてみればネコ娘らしいという意味だったのだが、
ネコ娘は心のどこかで目玉おやじのセリフが引っ掛かっていたらしい。
「えぇっ!?そんなこと言ってないじゃないか!」
まさか怒られるとは思ってなかった鬼太郎はうろたえた。
「どーせあたしは200年経っても
美人じゃないわよっ!!」
ネコ娘は悔しいのか悲しいのか、大きな瞳に涙を滲ませながら怒鳴っている。
鬼太郎は必死に慰めの言葉を探す。

「だから!僕は今のネコ娘が好きだってことだよ!」

・・・・・・・・

「・・・にゃ?」
「・・・・え・・・?」

二人の周りだけ時間が止まった。

「きっ・・・きたろぅ・・・?」
ネコ娘は段々と赤くなる頬を両手で押さえながら、鬼太郎を見つめている。
「あ・・・いや・・・その・・・・。」
言い訳を探していたはずがとっさに告白してしまった。
無意識だった。
しかし無意識に出た言葉こそ本心なのだろう。
「・・・・そ・・・それって、
女の子としてって・・・こと?」
目線を逸らして頬を赤くしている鬼太郎に、
ネコ娘は恐る恐る聞いてみる。
「・・・・・・・・まぁ・・・その・・・・そういう・・こと・・・かな?」
必死に自分の中で整理しようと試みるが、結局違うとは言えなかった。
「・・・・・・・・・・・。」
やっとの思いで搾り出したセリフを聞いてネコ娘がどんな顔をしているのか
チラリと視線を向けてみると、無言でポロポロと大粒の涙を流していた。
「ネコ娘!?どうして泣くんだい??」
まさか泣いているとは思わなかった。
「ひっく・・・・だって・・・全然相手にされてないって・・・思ってたんだもんっ・・・。」
そう涙ながらに搾り出すネコ娘を見て、鬼太郎は少し落ち着きを取り戻す。
「・・・まったく、ネコ娘は泣き虫だなぁ。」
ネコ娘の頭を優しく撫でながら、鬼太郎は苦笑した。
「ひっく・・・鬼太郎のせいなんだからぁ・・・。」
言葉は強気なのに言い方は甘えるようだった。
それがなんだか愛おしくて、鬼太郎の胸は締め付けられた。
「ごめんよ?でも、僕も自分の気持ちに気づいてなかったんだ。」
「・・・・ふふっ、鬼太郎ってば鈍感にも程があるわよぉ。」
鬼太郎の申し訳なさそうな言葉に、泣いていたネコ娘も思わず笑みを零す。
「あはは・・・ごめん・・・。」
鬼太郎はそう言って、頭を掻きながら眉を下げる。
「でも・・・、あたし今すごく幸せ。」
「うん・・・。ネコ娘、二人でゆっくり成長していこう。」
「うんっ。」
頬染めながら、二人はそう言って微笑み合った。

「・・・それにしても、あれはいったい何の薬だったのかしら・・・?」
涙を拭ったネコ娘が、ふと思い出したように口を開く。
「う~ん・・・・。」
結局二人では答えが出ず、砂かけばばあの帰りを待つしかなかった。

翌日。

「あっ!帰ってきた!」
長屋の縁側で皆の帰りを待っていた鬼太郎とネコ娘の視界に、長屋のメンバーの姿が映った。
「おかえりなさい!」
「おぉ、鬼太郎、ネコ娘。何か変わったことはなかったか?」
「実は・・・・。」
ネコ娘は頭痛薬だと思って飲んだ薬の話を砂かけばばあに話した。
「なんと!成長したと!?」
それを聞いた砂かけばばあは心底驚いている。
「う、うん。1日だけだけど・・・。で、あれはなんの薬だったの?」
「あれはな、人間界で言う『さぷり』じゃ。」
サプリ~??」
「前におやじ殿から聞いてな。砂を調合して作れんものかと実験中だったのじゃ。」
妖怪にとっても栄養補助食品のようなものがあればいいと、考えついたようだった。
「しかし強力すぎたようじゃの。」
「ビックリしたわよ~!戻れなかったらどうしようかと・・・。」
「あれは試作品じゃ!そのうち完成したら、そんなこともなくなるじゃろうて。」
「もう!呑気なんだからぁ~・・・。」
失敗してもただでは起きない砂かけばばあは今後も完成を目指すようだ。
「ところで鬼太郎。」
砂かけばばあはふと横にいる鬼太郎に声を掛けた。
「?」
「大人になったネコ娘はどうじゃった?」
「えぇっ!?」
砂かけばばあにしてみれば、自分が見れなかった実験結果を尋ねているだけなのだが、
鬼太郎はつい昨夜のことを思い出してしまう。
「あ・・・いや・・・その・・・。」
頬を染め言い淀んでいる鬼太郎を、砂かけばばあは不思議そうに見ていた。
「なんじゃ?何かおかしなところでもあったのか?」
「いっ・・・いや、そうじゃ・・・ないけど・・・。」
「おかしな奴じゃのぅ。」
「ま、まぁいいじゃない!・・・・鬼太郎は・・・今のあたしがいいって・・・言ってくれたし・・・。」
ネコ娘はそう言いながら頬を染める。
「ん?鬼太郎がなんじゃと?」
「なっ!なんでもないよ!!!」
聞き返す砂かけばばに、鬼太郎が慌てて誤魔化してみせる。
「???まったく、二人しておかしいぞ。」
「あははは・・・・。」
「あ!鬼太郎!あたし鬼太郎の家に忘れ物しちゃったみたい!付き合って!」
「えっ?あっ、うん!じゃ、じゃあ行こうか、ネコ娘!」
「うん!じゃあね!おばば!!」
鬼太郎とネコ娘はなにやら早口で会話し、逃げるようにその場を去って行った。
「・・・・・なんじゃ?」
残された砂かけばばあはただ二人の後姿を見つめていた。
「ふぅ~~む、あの二人にもようやく春が訪れたようじゃなぁ。」
それまで砂かけばばあの肩の上で黙っていた目玉おやじが口を開いた。
「おやじ殿、どういう意味じゃ?」
「なんじゃ、お主わからんのか?」
「???それよりおやじ殿、鬼太郎に置いて行かれたようじゃが?」
「!!なんと!おぉ~~~い!!鬼太郎~~~!!」
横丁には、目玉おやじの声が空しく響いていた。

 

 

 

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