「はぁ~、遅くなっちゃったなぁ~・・・。」
初夏のある日、ネコ娘は人間界をぽてぽてと歩いていた。
バイト先の店が思いの他忙しく残業を頼まれてしまい、
気がつけば夜遅くまで頑張ってしまった。
「お土産もらったけど、鬼太郎もう寝ちゃったかなぁ・・・。」
独り言を言いながら歩いていると、公園に差し掛かる。
何気なく公園に目を移すとベンチに人影が見えた。
(こんな時間に人?)
少し不審に思って、じっと見てみる。
すると暗闇でもよく見えるネコ娘の目はベンチに釘付けになる。
そこには二人の人間がいた。
「にゃっ!?」
それを見たネコ娘は顔を赤くする。
ベンチには男女。
そして口付けを交していたのだ。
ネコ娘はとっさに隠れた。
そして植え込みの影からこっそりと二人を見つめる。
恥ずかしくてその場を離れたいのに、なぜか目を逸らせない。
ドキドキと高鳴る胸を手で抑えながら、ベンチの二人を見る。
二人は角度を変えながら、何度も口付ける。
すると男性の手が女性の胸に置かれた。
「にゃっ!!??」
それを見て、ネコ娘は思わず声を出してしまった。
その声が聞こえたのか、ベンチの二人が驚いたようにキョロキョロしている。
気付かれた!
ネコ娘は素早くその場から逃げ出した。
やがてゲゲゲの森まで辿り着くと、走るのをやめ、歩き出す。
「・・・・。」
どうやってもさっきのことが頭から離れない。
(・・・キスって、どんな感じなのかな・・・。)
ネコ娘とて年頃。
興味はあるが、こればかりは誰でもいいというわけにはいかない。
してみたいのはただ一人。
幼なじみの彼以外とはしたくない。
しかし、当の鬼太郎は恋愛に対してはまったく興味がなさそうだ。
「はぁ・・・。」
つい溜め息が出る。
アプローチはしているが、一向に進展がないことにネコ娘は少々疲れていた。
そうこうしているうちに、その幼なじみの家に着いてしまった。
見上げれば灯りはついている。
(起きてるのかな?)
寝ていたら起こすのも悪いと、足音を消して階段を上る。
そして静かに筵を捲り中を覗いてみると、鬼太郎も目玉おやじもすっかり眠っていた。
ネコ娘はそっと部屋に入り、土産をちゃぶ台に置く。
そしてバッグから紙とペンを取り出し、書き置きを残した。
それから囲炉裏に近づき、部屋を照らし続けているつるべ火に、
「もういいよ、お疲れさま。」
と小声で労うと、つるべ火は目を閉じ炎を小さくした。
ふと鬼太郎を見ると、足で蹴飛ばしたのか掛布団が肌蹴ていた。
(しょうがないなぁ・・・。)
そっと近づき布団を直すとその寝顔に目がいく。
(気持ちよさそうに寝ちゃって・・・。)
無邪気な寝顔に笑みが溢れる。
しかし、突如さっきの公園での出来事が甦る。
すると目がいくのは鬼太郎の唇。
じっと見つめていたネコ娘は、まるで吸い寄せられるように顔を近づけていった。
胸がドキドキと高鳴る。
やがてスゥスゥと規則正しい寝息がすぐ近くで聞こえる。
ネコ娘はゆっくりと目を閉じ、鬼太郎の唇に自分の唇をそっと重ねた。
「ん・・・。」
「!!」
ふいに鬼太郎が寝返りを打とうと声を出した。
ネコ娘は我に返り、パッと離れる。
そして自分の行動が急に恥ずかしくなり、極力足音をたてないように急いで家を出た。
(・・・キス・・・しちゃった・・・。)
ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、自宅へと歩く。
ふと自分の唇に手をやる。
(なんだか不思議な感じ・・・。)
さっきは衝動的にキスしてしまったが、もしもこれが起きているときだったら・・・。
そこまで考えると、徐々に顔が熱をもってくる。
(もっ、もう!今日のあたし、変だわ!早く帰って寝よう!!)
ブンブンと思考を振り払い、ネコ娘は家路を急いだ。
一方その頃ゲゲゲハウスでは・・・。
(・・・まったく。)
ネコ娘の妖気で目が覚めた鬼太郎は、なんとなく寝たふりをしていた。
書き置きをして帰るのかと思いきや、自らキスしてきたのだ。
さすがにびっくりしたが起きてしまうのも勿体無いと、そのまま寝たふりをした。
しかしその唇の柔らかさについ声を洩らしてしまい、ネコ娘を驚かせたのだった。
(まさか君のほうからキスされるなんてね。)
そう心で呟きながら苦笑する。
今日のことは夢にしてあげるよ。
今度はちゃんと起きてる時に、僕からさせてもらうから・・・。
終