誓い

6月のある日。

「ただいま~!」
「やぁ、おかえり、ネコ娘。」
筵を捲り入ってくるネコ娘を鬼太郎は穏やかに迎える。

「どうだった?結婚式。」
「うん、もうすっごく素敵だった!」

前に勤めていたバイト先で知り合ってから仲良くしている人間の友人。
今日は彼女の結婚式に招かれて、出席していたのだ。
ネコ娘は終始ご機嫌な様子で手荷物を置き、鬼太郎の側に腰を下ろした。
「そう、それはよかったね。」
ネコ娘の嬉しそうな顔を見て、鬼太郎もまた笑顔でそう返した。
「うん!あ、これ、
花嫁さんの手作りクッキーなんだって!
お土産にもらったから一緒に食べよ!」
手荷物の中から小さくて可愛らしい袋を
取り出し口を開くと、
甘い匂いが辺りに漂う。
「うまそうな匂いじゃのう。」
「はい、おやじさんっ!」
袋の中からクッキーを一つ取り出し、目玉おやじに差し出す。
「鬼太郎もどうぞ!」
「ありがとう。いただきます。」
そう言って鬼太郎もクッキーを一つ口に入れた。
「う~む、美味いのぅ。」
「えぇ、とっても
美味しいですね。」
美味しそうに
食べる二人を見て、ネコ娘も一つ口に運ぶ。
「ん~!美味しい~!」
噛んだ瞬間、口の中いっぱいに広がる甘さに、思わず笑顔になる。
「何かすごく思いが詰まってる感じがしますね。」
「きっと花嫁さんがみんなを思って作ったんじゃろう。」
そんな二人の会話を聞いて、ネコ娘は式の様子を思い出していた。
「本当に素敵な結婚式だったなぁ・・・。」
呟くようにうっとりしているネコ娘を、鬼太郎は優しく見つめていた。
「きっとたくさんの人に慕われる、素敵な
夫婦になるよ。」
こんなに美味しいクッキーを作れるんだもの。
と付け足し、鬼太郎はにっこり微笑んだ。
いつもより優しい鬼太郎に、ネコ娘は嬉しくなる。
「うんっ!きっと幸せになるよね!」
そう言って最高の笑顔を鬼太郎に向ける。
しかしすぐにふと目線を
落とし
「・・・いつかあたしも、そんなふうになれたらいいな・・・。」
と、呟いてみる。
「・・・大丈夫だよ。」
どんな言葉が返ってくるかを考える暇もなく、鬼太郎は静かにそう言った。
「えっ・・・?」
大丈夫の意味がわからず、聞き返そうと口を開いたとき。
「な~んかうまそうな匂いがするじゃね~か!」
と、ねずみ男が入ってきた。
「にゃっ!?ねずみ男!!」
「おっ!クッキーか!んじゃ、遠慮なく~。」
そう言ってちゃぶ台のクッキーに手を伸ばす。
「ちょっと!これは思いのこもったクッキーなんだから!」
「いいじゃね~か!オレぁ腹ペコなんだよ!」
と言って、パクリとクッキーを口に入れた。
「にゃっ!!ね~ず~み~男~!!」
それを見たネコ娘はすかさず化け猫化する。
「なんだよ!ケチケチすんなよ!」
凄まれて尚、また一つクッキーを口に運ぶ。
「ニャーーー!!」
しかし、すぐにネコ娘の爪がねずみ男の顔面にヒットした。
「ぎやぁ~~!!お助け~~!!」
「待ちなさいよ!!」
堪らず逃げ出すねずみ男をネコ娘が追っていく。

二人のいつものやりとりを親子は黙って見ていたが、やがて口を開く。
「ハハハ・・・、相変わらずだなぁ、あの二人も。」
「ま、猫と鼠じゃからのぅ。」
呑気な会話をしながら、鬼太郎は少しホッとしていた。

『大丈夫だよ。』

少し淋しげなネコ娘を見て、ついそう言ってしまったが、
どういう意味かと聞かれたときの答えを用意していなかった。
窓の外から聞こえてくる声を聞きながら、鬼太郎は一人笑みを浮かべた。


きっと君が思うよりも、僕はいろいろ考えてるんだよ。
ただ僕はこんなだから、君にはやきもきさせてるだろうね。
素直になれない僕を、君はいつまで許してくれるかな。

いつか、そう遠くない未来、ちゃんと言葉にするから。

『永遠に僕の隣にいて欲しい』
と・・・・。

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