まどろみの中の温もり

「・・・どうしたんだい?」

さっきから訴えかけるような目で自分を見つめているネコ娘に、
鬼太郎はそう問いかける。

「・・・・してよ・・・。」
怒っているのか困っているのか、そんな表情で呟いた。
「えっ?」
しかしあまりにも小さな呟きだったため、鬼太郎には聞き取れない。
「・・・
女の子扱いしてよ!」
今度は恥ずかしそうに頬を染めてそう訴えた。
「・・・君は女の子だろ?」
ネコ娘の言いたいことはなんとなくわかってはいるが、
鬼太郎とてネコ娘を女の子として見ているつもりだ。
「そっ、そうだけどっ!でも、・・・鬼太郎はそう思ってないんでしょ・・・?」
強気だった言葉も、最後は
消えるように小さくなってしまう。
「どうしてそう思うんだい?」
そんなネコ娘を見て、鬼太郎はなんでもないように尋ねる。
「・・・だって、あたしがどんな格好したって、
鬼太郎は全然反応してくれないじゃない。」
そっぽを向いて、頬を膨らませながらそう答える。
鬼太郎はそれを見て、ふぅ、と小さく息をつく。
それを聞いたネコ娘は、鬼太郎が自分に対して呆れているのだと思い、
悲しげに眉を寄せた。
しかし次の瞬間、突如目の前に現れた鬼太郎の顔に、
ネコ娘は飛び上がりそうになった。
「にゃっ!?」
あまりの顔の近さに、反射的に離れようとするネコ娘の腕を、
鬼太郎がしっかり捕まえる。
「っ!?き、鬼太郎!?」
うろたえるネコ娘の目を、鬼太郎はジッと見つめた。
「これでも結構大変なんだよ?」
「?」
何が大変なのか、ネコ娘には今の鬼太郎の言動がまったく理解出来ていない。
すると今度は耳元にスッと近づき、
「僕が君を女の子扱いしたら、君をどこへも逃さないけど、それでもいいかい?」
と、低く囁き、尖った耳にチュッと音を立てて口付けた。
「んにゃっ!!??」
ビクンと身体を跳ねさせ、みるみる真っ赤になっていくネコ娘の耳元で、
鬼太郎は楽しそうにクスクスと笑う。

『ばかっ!』
そう言ってこの場から逃げればいい。
鬼太郎がそんな風に考えていると、ネコ娘が真っ赤な顔で振り返った。

「・・・逃げたりしないもん・・・。あたしは、鬼太郎の傍にいたいの。」
予想してなかった返事が返ってきた。
その表情には強い決意が感じられるのに、
朱に染まった頬と潤んだ瞳のせいで誘っているように見えてしまう。
予想外のネコ娘の言葉に動けずにいると、
「・・・あたしを、逃げられないように、鬼太郎のものにして?」
と、懇願された。
そんな顔でそんなセリフを吐かれては、鬼太郎とてひとたまりもない。
心臓がドクンと鼓動するが、なんとか理性を繋ぎとめる。
「ネコ娘・・・、それ、どういう意味かわかって言ってるのかい?」
ネコ娘は戸惑いがちにコクンと頷いた。
「・・・本当に僕でいいのかい?」
まさかネコ娘がここまで考えていたとは思わなかった。
そのため鬼太郎は妙に慎重になってしまう。
「・・・鬼太郎じゃなきゃ、イヤなのっ。」
自分で言い出したこととは言え、段々恥ずかしくなってきたネコ娘は、
そう涙ながらに訴えた。
しかし鬼太郎にとってはそれがトドメだった。
ネコ娘の真っ直ぐな気持ちに理性も擦りきれる。
「ネコ娘っ!!」
気付けばそう名前を呼び、その華奢な身体を抱きしめていた。
身体から直に伝わる体温と鼓動。
そして、女の子特有の柔らかな抱き心地に、鬼太郎は満たされていくのを感じた。
「きたろぉ・・・。」
嬉しそうに切なそうに名前を呼ぶ声は震えていた。
鬼太郎が少しだけ身体を離すと、その大きな瞳をゆっくり閉じた。
「ネコ娘・・・。」
鬼太郎は誘われるまま、その愛らしい唇に近づいていく。

 

「鬼太郎っ!!」


突如名前を呼ばれ、鬼太郎は目を開けた。
目の前にはネコ娘。
しかしその表情は先ほどまでのものではなく、
真っ赤な顔で怒ったような困ったような複雑な表情だ。

「・・・ネコ娘?」
「・・・も、もう!どんな夢見てたのよぉ・・・。」
目をパチクリさせて名前を呼べば、ネコ娘は恥ずかしげにそう呟く。
「・・・へっ?」
夢?
鬼太郎はいまいち状況が理解できない。
するとネコ娘が自分の腕から抜け出すとちょこんと座り、
「もうっ、いくら起こしても起きないと思ったら、こんな・・・・・・・。」
頬を赤らめたまま、そう抗議する。
「あ・・・、ごっ、ごめん!!」
夢だった。
鬼太郎はやっと理解すると、頬を染め謝る。
「もぅ・・・、よりによって寝ぼけてるときに
布団に引きずりこむなんて・・・。」
相変わらず顔は赤いまま、ぶつぶつと呟く。
「・・・じゃあ、寝ぼけてなかったらいいんだね?」
「えっ?・・・にゃっ!?」
平然とそう言うと、ネコ娘の腕を掴んで引き寄せた。
そしてそのまま自分の腕の中に収めてしまった。
「~~~っ!?きっ・・・きた・・・ろぅ・・・??」
再び布団に引きずりこまれて、ネコ娘は混乱している。
一方鬼太郎は、夢の中と同じ、温かくて柔らかな感触を楽しんでいた。

「・・・やっぱりネコ娘は柔らかくて気持ちいいね。夢と同じだ・・・。」
「っ!?夢って、あたしの夢見てたの・・・?」
鬼太郎が自分の夢を見ていたと聞いて、
ネコ娘は嬉しいやら恥ずかしいやらでますます真っ赤になった。
「そうだよ。なんなら夢の続き・・・しようか?」
まだ寝ぼけているのか、熱っぽい声でそう囁く。
!!??
「ンニャ~~~!!!」
ネコ娘には刺激が強すぎた。
恥ずかしさが限界を越え、化け猫化したと思ったら、鬼太郎の顔を引っ掻いて飛び退いた。
「イッ!?」

「鬼太郎の・・・ばか~~~!!」
そう言って出て行ってしまった。
残された鬼太郎は顔の傷を撫でながら苦笑いしていた。

「まったく・・・。お前はもう少し乙女心というものを学ばねばのぅ。」
茶碗
風呂に浸かっていた目玉おやじがやれやれと肩を竦める。
「ははは・・・、そうみたいですね。」

初夏の日差しが眩しくて、鬼太郎は目を細めた。
腕にはまだ、柔らかな温もりが残っているようだった。

 


 

 

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