surprise

「は~あ、なんかいい儲け話はないもんかねぇ~。」
今日も今日とて独り言を零しながら、ねずみ男は人間の街をブラブラと歩いていた。
するとある店のショウウィンドーに張り付いている人物を見つけた。
「ありゃあ、ネコ娘じゃねぇか。」
いつもならねずみ男の臭いにすぐ気付くネコ娘が、今日はまったく気付く気配がない。
どうやらよほど夢中になっているようだ。

「はぁぁ~・・・いいなぁ~・・・。」
「は~ん、こういうのが趣味なわけね。」
うっとりしていたネコ娘の頭上から、突如声が降ってくる。
「にゃっ!?ねずみ男!!」
慌てて振り返ると、すぐ後ろにねずみ男が立っていた。
「なっ、なんの用よっ!」
「別に~。それよりオメェ、こういうのは男に買って貰うモンだろ~。」
ネコ娘が熱心に見入っていたのは
プラチナネックレスだった。
トップには小さな石がついていて、いかにもネコ娘くらいの
女の子が好きそうなデザインだ。
「う、煩いわね!」
「あ~そうか、オメェみたいなガキに買ってくれる男なんかいねぇか・・・んぎゃあ!!」
言い終わると同時にねずみ男の顔面にネコ娘の引っ掻き攻撃が炸裂した。
そして、ネコ娘はそのままスタスタと去って行った。
「クッソ~、思いっきり引っ掻きやがって・・・あいててて・・・。」
痛む傷を押さえながら、ねずみ男もフラフラと歩き出す。


「父さん、そろそろ夕飯にしましょうか。」
「うむ、そうじゃのぅ。」

「お~い、鬼太郎~。」
いつものように平和なゲゲゲハウスに、災いをもたらす声が響く。

「ねずみ男か、何の用だい?」
そんなことは慣れっこと、鬼太郎は気にもせずにねずみ男を迎え入れる。
「おっ、丁度今から飯か!?」
鼻の効くねずみ男が気付かないわけもなく、スリスリと手を合わせている。
「あぁ。・・・その顔、またネコ娘を怒らせたのか?」
食べ物のことですっかり忘れていたが、鬼太郎に言われて怒りが甦る。
「聞いてくれよ!あのネコ女が熱心に
アクセサリーなんか見てるから、
男に買って貰えって言ったらこれだぜぇ?」
実際はその後のセリフで引っ掻かれたのだが、
ねずみ男は自分の都合のいいように言い訳する。
しかし鬼太郎にはそれが真実でないことはわかっている。
それよりも鬼太郎が気になったのは・・・
「アクセサリー?」
「おぅ、プラチナのネックレスだったぜ。」
「ふぅん・・・。」
ねずみ男の話を聞き、しばし考えてから、
「ねずみ男、今日は夕飯をご馳走してやるから、
後でその店に案内してくれないか?」
「?あ、あぁ、そりゃ~別に構わねぇけど・・・。」
金を持たない鬼太郎がわざわざ行ってどうしようというのか。
ねずみ男は不思議に思ったが、せっかくのタダ飯にありつけるのだからと、
深く考えることはしなかった。
夕飯も食べ終わり、鬼太郎とねずみ男は人間の街へと歩いていた。

「そこの角を右に曲がったところだよ。」
ねずみ男の案内について行くと宝石店へと辿り着いた。
そしてショウウィンドーを覗く。
「あぁ、これだよ。」
ねずみ男の指差す先には、昼間ネコ娘が熱心に見つめていたネックレスがあった。
「んじゃ、オレは帰るぜぇ~。」
「ありがとう、ねずみ男。」
後ろ向きに手をひらひらと振りながら、ねずみ男は去って行った。

「・・・・。」
一人ネックレスを見つめる鬼太郎は、やがて何かを決心しその場を後にした。


数日後のゲゲゲハウス。
「きたろ~?」
いつものように一言声を掛け、筵を捲ってネコ娘がやってきた。
「おぉ、ネコ娘。」
「あれ?鬼太郎、また寝てるの?」
ここ何日か昼間に訪れているにも関わらず、鬼太郎は寝ていることが多い。
元々ぐうたらな鬼太郎だが、最近は妖怪退治に出掛けるときも眠そうにしていた。
「う・・・うむ、何やら夜あまり眠れないらしくての・・・。」
「そうなんだぁ・・・。」
鬼太郎が昼間に寝ている訳を知っている目玉おやじは、それらしい理由で誤魔化す。
「じゃあ明日不眠症に効くハーブティーでも持ってくるわね!」
「すまんのぅ。」
いいのよ、と笑顔で返すネコ娘に、
目玉おやじは本当のことを隠している後ろめたさを感じていた。
しかし鬼太郎から口止めされている以上、喋るわけにはいかなかった。

翌日
「きたろ~?あ、今日は起きてた!」
「やぁ、ネコ娘。」
眠そうではあるが、数日ぶりに声が聞けてネコ娘は嬉しそうだった。
「なんだか眠れないって聞いたから、不眠症に効くハーブティーを持ってきたの。」
ストンと鬼太郎の隣に腰を下ろすと、持ってきたハーブティーを差し出した。
「ありがとう、ネコ娘。」
鬼太郎はそれを笑顔で受け取る。
「どういたしまして!あ、おやじさんの分も持ってきたから、後で使ってみてね!」
「ハーブティーか、それは楽しみじゃのう。」


それから2週間後
ネコ娘は
ファーストフード店でのバイトを終え、店の裏口から外へと出た。

「ネコ娘。」
ふいに名前を呼ばれ振り向くと、そこには鬼太郎の姿があった。
「鬼太郎!?どうしたの!?」
鬼太郎が自分から会いにくることなど考えられないが、
今は確かに自分を待っていたであろう鬼太郎が目の前にいる。
「ちょっといいかな?」
鬼太郎はただそう言って笑顔を向ける。
「あ、うん!」
どういうことかは分からないが、鬼太郎が会いに来てくれたその事実だけで、
ネコ娘はバイトの疲れも忘れてしまう。
しばらく無言で歩くと、やがて公園に辿り着いた。
すると鬼太郎は何やらゴソゴソとポケットを探り始めた。
「・・・これ。」
「?」
取り出したのは長さ20cmほどの細長い箱。
「なぁに、これ?」
「開けてみてよ。」
そう言って、その箱をネコ娘に手渡す。
ネコ娘はそれを受け取り、パカッと開いた。
「!!」
中を見て心底驚いているネコ娘を、鬼太郎は少し照れたように笑って見つめる。
「こっ、これって、あたしが欲しかったネックレス!?」
鬼太郎はコクンと頷いた。
箱の中にはあのプラチナのネックレスが入っていた。
「・・・どうして・・・。」
「ねずみ男に聞いたんだ。」
「あっ・・・。」
ねずみ男の名前を聞いて、あの日のことを思い出した。
「でっ、でも、どうして鬼太郎が・・・?」
「君にはいつも世話になってるし、そのお礼だよ。」
目線は合わさずちょっと眉を下げて、鬼太郎はそう話す。
「お礼って・・・だってこれ、安くないのにどうやって・・・。」
「あぁ、僕もちょっと
アルバイトしたんだよ。」
ネコ娘の頭はパニック寸前だ。
鬼太郎が自分の欲しかったネックレスをバイトしてまで手に入れて、
プレゼントしてくれた。
普通お礼でそこまでするだろうか?
殊更ぐうたらな鬼太郎がバイトだなんて・・・。
通常ではあり得ないことだ。

「つけてあげるよ。」
「えっ・・・?」
鬼太郎は箱からネックレスを取り出しネコ娘の背中に回り込むと、
ネックレスの止め具をはめた。
「つけたよ。」
「あ・・・ありがとう・・・。」
相変わらず考えがまとまらず半分放心しているネコ娘に、
「うん、似合ってるよ。」
と、鬼太郎はニッコリ微笑んだ。
それを見てネコ娘は少しづつ落ち着きを取り戻す。
「鬼太郎・・・、本当にありがとう。あたし、すごく嬉しいっ!!」
そう言って、ネコ娘は最高の笑顔を見せる。
それを見て鬼太郎も嬉しそうに笑う。
「・・・あっ、あの、鬼太郎?ちょっと目を瞑って?」
「?・・・うん。」
言われるままに目を瞑ると、すぐ近くにネコ娘の気配を感じた、と思ったら、
フワリといい香りと、頬のあたりから『チュッ』と音がして、すぐにネコ娘が離れた。
鬼太郎が驚いて目を開けると、頬を染め俯くネコ娘の姿があった。
「ネコ・・・娘・・・?」
「あたしからの・・・お礼!」
そう言って恥ずかしそうに微笑んだ。
ほんのり染まる二人の頬は、夕日に照らされ更に赤く染まっていた。

 

 

 

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