コイビト

葵を見送り、ねずみ男もお歯黒から逃げるように去り、
そのお歯黒も帰って行った後・・・。

「さて、わしらも中に入るとするかの。」
「そうですね。ネコ娘もくるだろう?」
鬼太郎は父に返事をしてから、当然のようにネコ娘にも声を掛けてきた。
「あ、うん!」
あんなことがあったからだろうか、ただそれだけのことがネコ娘には嬉しかった。

部屋に入り、鬼太郎はお茶の用意を始めた。
「あ、あたしがやるわ。鬼太郎、疲れてるでしょう?」
そう言って鬼太郎の側まで来ると、
「これくらい大丈夫だよ。ネコ娘こそ寒かっただろう?火の側で
温まるといいよ。」
そんな優しい言葉を掛けられた。
「・・・ありがとう。」
心配してくれたことが、今日はいつも以上に嬉しかった。
ニッコリと微笑んでお礼を言い、言われた通り火の側に腰を下ろした。
やがてお茶の用意も整い、まず父の茶碗に湯を注ぐ。
「父さん、お
風呂の用意できましたよ。」
「おぉ、では早速入るとするかの。」
そう言って、片足で温度を確かめながら、やがて肩まで浸かる。
「ふぅ~、いい湯加減じゃ。」
それを確認してから、今度は急須に湯を注ぎ、湯飲みにお茶を入れる。
「ネコ娘、できたよ。」
「あ、ありがとう。」
そう言って鬼太郎の手から湯飲みを受け取るが、
「あつっ!!」
と、持っていた湯飲みから手を放してしまった。
ヤバイ、と思ったが、とっさに鬼太郎が手を伸ばし、事なきを得た。
「ネコ娘?・・・手を見せてごらん。」
鬼太郎は少し考えて、もしや、と思った。
「だっ、大丈夫!なんでもないから!」
慌てるところがますます怪しい。
鬼太郎はネコ娘の手首を掴み、強引に自分のほうへ引き寄せる。
「あっ・・・。」
「・・・やっぱり。」
手を見れば、赤く痛々しい。
「しもやけになってるじゃないか。どうして隠すんだい?」
「・・・だって、心配かけたくなかったんだもん・・・。」
ネコ娘は下を向き、ボソボソと呟くようにそう答えた。
それを見て鬼太郎は、ふぅ、と小さく溜め息をついた。
そしてネコ娘の手を自分の手で包み込んだ。
「!!・・・きたろ・・・?」
 俯いていたネコ娘はバッと顔を上げ、大きな瞳を見開いて鬼太郎を見る。

「まったく君は、僕から離れてるといつも危険な目にあってるんだから。
首輪でも付けておこうか?」
そう言って包んだネコ娘の手を自分の口元に持っていき、
悪戯っぽく笑みを溢した。
「にゃっ!?」

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鬼太郎の言動に、ネコ娘の顔は一気に赤くなる。
「もっ、もうっ!あたしは
ペットじゃないんだからぁ!!」
照れ隠しにそう言って、慌てて手を引っ込める。
鬼太郎はそれを見てクスクスと小さく笑いながら、
「お茶、そろそろ冷めたんじゃない?」
と、湯飲みに目をやった。
ネコ娘はまだ頬を染めたまま、黙ってお茶をすする。


君をペットだなんて思ってないよ。
だって君は僕の『コイビト』なんだろう?
首輪は僕だけの君だっていう証だよ。
今はまだ自由にさせてあげるよ。
でも、その瞳にはいつでも僕だけを映しておいて。
そうじゃないと、僕の中の闇が君を閉じ込めてしまいたいと願うから・・・。


 

 

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