「ねぇ、鬼太郎?」
「ん・・・?なんだい?」
ある日のゲゲゲハウス。
いつものようにごろ寝をしている鬼太郎に、ぼーっとしていたネコ娘がふと尋ねる。
「もしもあたしが居なくなったら・・・鬼太郎は困る?」
それはあまりにも唐突な質問だった。
「・・・居なくなる予定でもあるのかい?」
おそらく自分の気持ちを聞きたくて言っているのだろうと思いつつ、
鬼太郎はそう言ってのそりと起き上がる。
「もしも、よ。」
ネコ娘はそう言って、両手で頬杖をつきながら鬼太郎を見つめている。
「・・・もしネコ娘が居なくなったら、戦闘中の父さんを誰に任せればいいんだい?」
そう言われて当の目玉おやじを見ると、
お気に入りのハーブティーを入れた茶碗風呂で気持ちよさそうに眠っている。
「・・・おじじやおばばがいるじゃない・・・。」
普段ならこれで納得しそうなものだが、今日はまだ引き下がらないようだ。
「おじじやおばばだっていつも一緒にいるわけじゃないだろう?」
「そりゃぁ、そうだけど・・・。」
「でもさ、ここから居なくなって困るのはネコ娘のほうだと思うよ?」
「・・・どういうこと?」
鬼太郎に困るかどうか聞いているのにも関わらず、
ネコ娘本人が困るとはどういうことなのか、ネコ娘にはまったく理解できなかった。
「もしネコ娘が居なくなったら、きっと僕は毎日朝から晩までダラダラして、
妖怪ポストに届く手紙にも気付かないだろうね。」
まるで自分の怠けっぷりを自慢でもするかのような言い分に、
ネコ娘はぽかんとしてしまう。
「ご飯もまともに食べないだろうし・・・。」
「な、何よ、それ!」
それのどこが自分の困る理由なのか、さっぱり解らず呆れた。
すると鬼太郎はズイッと顔を近づけて、
「それでもネコ娘は、僕を置いて居なくなってしまうの?」
と、少し甘えるようにネコ娘を見つめた。
普段はあまり見せない表情に、ネコ娘の母性本能が擽られる。
それと同時に、顔の近さに胸が高鳴る。
「もっ、もう!あたしが鬼太郎の側から居なくなるわけないでしょっ!」
「そう、よかった。」
仄かに赤く染まる顔でそう言うネコ娘に、鬼太郎はにっこりと笑う。
「・・・鬼太郎はズルイ・・・。」
そんな鬼太郎を見て、ネコ娘は小さく呟いた。
「ん?何?」
「なんでもな~い。」
少し頬を膨らませるネコ娘を、鬼太郎は不思議そうに見つめ、
そう?と言いながらまた横になった。
ネコ娘はそんな鬼太郎を見つめて、
(なんかうまく言いくるめられた気がするけど、
でも少しは頼ってくれてるってことよね!)
と、自分の中で納得していた。
「あ、ねぇ鬼太郎、お茶入れるけどいる?」
そう言う声は、もういつものネコ娘だった。
「うん、頼むよ。」
そんなネコ娘に、鬼太郎も穏やかに返す。
(僕は随分と君に甘えてたんだな。自分で言って気づくなんてね。)
鬼太郎はそう心の中で呟いて、自潮気味に笑う。
やがて用意した急須からお茶を注ぎ、ネコ娘が湯呑みを渡してきた。
「はい、どうぞ!」
「・・・ネコ娘、いつもありがとう。」
鬼太郎は笑顔でそう言って、湯呑みに添えられたネコ娘の手を、
自分の手で包んだ。
「!?きっ・・・鬼太郎!?」
突然のことに驚き鬼太郎の顔を見ると、穏やかな笑顔でこちらを見つめていた。
「あ・・・、どういたしまして・・・。」
ドギマギしながらそう返すと鬼太郎の手が離れた。
そして受け取ったお茶をすする。
ネコ娘はただその様子を見つめていた。
「そうだ、これから夕飯の買い物に行くけど、一緒に行くかい?」
ぼーっとしているネコ娘に鬼太郎が問いかける。
「えっ?あ、うんっ!」
ネコ娘はそう笑顔で答えた。
「父さんはよく眠ってるみたいだし、二人で行ってこよう。」
「うん!」
そう会話を交し、二人は買い物に出掛けた。
家を出て少ししたところで鬼太郎が立ち止まり、手を差し出す。
「あっ・・・。」
嬉しさと恥ずかしさで戸惑いながら、ネコ娘はおずおずと鬼太郎の手を握った。
すると鬼太郎も優しく握り返してくる。
夕日を浴びて赤く染まる景色の中、二人の心は春のようにポカポカしていた。
終