言葉の魔法

妖花との戦いを終え、真由美も元気になり、数日がたった頃。


「・・・
お父さん、か・・・。」
ゲゲゲの森にある泉の畔に、膝を抱えて座りこむネコ娘の姿があった。

P2260882.JPG

物心ついたときにはもうゲゲゲの森にいた。
それ以前の記憶はない。
気付いたときには横丁で、砂かけ婆に育てられていた。
(あたしのお父さんって、どんな人だったんだろう・・・。)
人じゃなくて妖怪か、と肩を竦める。
恋しいなんて思ったことはなかった。
ただ、たまには甘えたいときもある。
そんな時にふと考えることがある。
「・・・お父さん・・・。」
何を思うわけでもなく、ただ口に出してみる。

「ネコ娘?」
突然
背中から名前を呼ばれ、振り向くと不思議そうな顔の鬼太郎がいた。
「あ・・・、鬼太郎。」
「どうしたんだい?こんなところで。」
そう言いながら、隣に座る。
「うん・・・、あたしのお父さんって、どんな人だったのかなって・・・。」
そう静かに話す横顔は、儚げだった。
「あたし、記憶がなくて・・・。」
なぜか申し訳なさそうに、そう呟いた。
「・・・寂しい?」
鬼太郎にそう聞かれ、ドキッとする。
「えっ?あ、ううん、寂しいとかじゃ・・・なくて・・・。」
そこまで言って考える。
鬼太郎は黙ってその様子を見つめていた。
「・・・やっぱり、寂しいのかな・・・。」
そう言って苦笑いする。
「ネコ娘・・・。」
心配そうに名前を呼ばれ、慌てて明るく努める。
「あっ、別に探したいとか会いたいとか、そんなんじゃないの!」
鬼太郎は掛ける言葉が見つからず、ただネコ娘の言葉を聞いていた。
「・・・ただね、たまに甘えたいなって思うこともあるよ。」
今度はやはり静かにそう言って、泉を見つめた。

「・・・甘えていいよ。」
「えっ・・・?」
同様に泉を見つめていた鬼太郎が、今度はこちらを見る。
「僕に甘えていいよ。」
そう言って微笑んだ。
「鬼太郎・・・、ありがとう。」
なんだか心が軽くなった。
たった一言でこんなにも気持ちが休まるのは、きっと鬼太郎だからなのだろう。
ネコ娘は鬼太郎の肩に頭を傾けた。
鬼太郎もそれを拒んだりもせず、ただただ太陽の日差しを浴びて
キラキラ光る
水面を見つめていた。
「・・・少しだけ・・・このままでいさせて。」
目を閉じて、頬に鬼太郎の体温を感じながらそう呟いた。
返事はない。
何も言わずに許している鬼太郎の優しさが、体中に広がっていく。

P2260881.JPG

寂しくなったら甘えにおいで

疲れたときは寄りかかっていいんだよ

泣きたいときは側にいるよ

だから独りで抱えないで

君の笑顔が大好きだから。

 

 

 

TOPへ   展示部屋へ