妖花との戦いを終え、真由美も元気になり、数日がたった頃。
「・・・お父さん、か・・・。」
ゲゲゲの森にある泉の畔に、膝を抱えて座りこむネコ娘の姿があった。
物心ついたときにはもうゲゲゲの森にいた。
それ以前の記憶はない。
気付いたときには横丁で、砂かけ婆に育てられていた。
(あたしのお父さんって、どんな人だったんだろう・・・。)
人じゃなくて妖怪か、と肩を竦める。
恋しいなんて思ったことはなかった。
ただ、たまには甘えたいときもある。
そんな時にふと考えることがある。
「・・・お父さん・・・。」
何を思うわけでもなく、ただ口に出してみる。
「ネコ娘?」
突然背中から名前を呼ばれ、振り向くと不思議そうな顔の鬼太郎がいた。
「あ・・・、鬼太郎。」
「どうしたんだい?こんなところで。」
そう言いながら、隣に座る。
「うん・・・、あたしのお父さんって、どんな人だったのかなって・・・。」
そう静かに話す横顔は、儚げだった。
「あたし、記憶がなくて・・・。」
なぜか申し訳なさそうに、そう呟いた。
「・・・寂しい?」
鬼太郎にそう聞かれ、ドキッとする。
「えっ?あ、ううん、寂しいとかじゃ・・・なくて・・・。」
そこまで言って考える。
鬼太郎は黙ってその様子を見つめていた。
「・・・やっぱり、寂しいのかな・・・。」
そう言って苦笑いする。
「ネコ娘・・・。」
心配そうに名前を呼ばれ、慌てて明るく努める。
「あっ、別に探したいとか会いたいとか、そんなんじゃないの!」
鬼太郎は掛ける言葉が見つからず、ただネコ娘の言葉を聞いていた。
「・・・ただね、たまに甘えたいなって思うこともあるよ。」
今度はやはり静かにそう言って、泉を見つめた。
「・・・甘えていいよ。」
「えっ・・・?」
同様に泉を見つめていた鬼太郎が、今度はこちらを見る。
「僕に甘えていいよ。」
そう言って微笑んだ。
「鬼太郎・・・、ありがとう。」
なんだか心が軽くなった。
たった一言でこんなにも気持ちが休まるのは、きっと鬼太郎だからなのだろう。
ネコ娘は鬼太郎の肩に頭を傾けた。
鬼太郎もそれを拒んだりもせず、ただただ太陽の日差しを浴びてキラキラ光る
水面を見つめていた。
「・・・少しだけ・・・このままでいさせて。」
目を閉じて、頬に鬼太郎の体温を感じながらそう呟いた。
返事はない。
何も言わずに許している鬼太郎の優しさが、体中に広がっていく。
寂しくなったら甘えにおいで
疲れたときは寄りかかっていいんだよ
泣きたいときは側にいるよ
だから独りで抱えないで
君の笑顔が大好きだから。
終