目覚め

ある日の夕方のこと。
朝から
アルバイトをしていたネコ娘は、帰りに妖怪長屋へと訪れていた。

「これなんかどうじゃ?」
「わぁ!綺麗!これがいい!」
ネコ娘と砂かけ婆は、長屋の二階にある砂かけ婆の部屋で
数々の浴衣を広げていた。
「これでいいんじゃな?」
「うん!でも、ホントにもらっちゃっていいの?」
「遠慮なんかするでない。どうせわしが持ってても、
箪笥の肥やしにしかならんしの。」
「ありがとう、おばば!」
ちょうど箪笥の整理をしていた砂かけ婆を訪ねてきたところ、
好きな物を持っていけと言われ、ネコ娘はちょっと大人っぽい、
桜が描かれた浴衣を選んだ。
「着てみてもいい?」
「一人で大丈夫か?」
「うん!大丈夫!」
そう聞いて、砂かけ婆は部屋を出た。
襖が閉まるのを確認すると、ネコ娘は
ジャンパースカートブラウスを脱ぎさった。
すると、

「おばば?」
という声がして、襖が開いた。
「あ・・・。」
「にゃ・・・?」

P3070903.JPG 

声の主は鬼太郎だった。
てっきり砂かけ婆がいるのかと思い襖を開けてみると、
そこには下着姿のネコ娘がいた。
二人の時が止まる。

 

「ぎにゃああぁぁぁぁ~~!!!!」
再び時が動き出した時には、長屋が震えるかと思うほどの悲鳴が響き渡った。
鬼太郎はその悲鳴で眩暈を覚えたが、
「ごっ!ごめん!!!」
と、なんとか謝り襖を閉めた。

P3070904.JPG 

部屋の中ではネコ娘が、
部屋の外では鬼太郎が、
顔を真っ赤にして、胸の鼓動を高鳴らせていた。
するとそこへ、砂かけ婆が慌ててやってきた。
「一体何事じゃ!?」
「あ・・・おばば・・・・。」
「鬼太郎、何があったんじゃ?」
と問いかけてから、鬼太郎の顔が赤いことに気付いた。
「・・・そういうことか。」
その顔を見れば、ネコ娘の着替え中に部屋に入ったであろうことが瞬時にわかった。
「おばばが・・・いるかと思って・・・。」
鬼太郎は頭を掻きながらそう呟くように話す。
「まぁ、事故じゃな。ネコ娘の機嫌もそのうち直るじゃろう。
今日は帰るがよい。」
砂かけ婆が慰めるようにそう言うと、
「う、うん、そうするよ。」
と言って、鬼太郎は帰っていった。
砂かけ婆はその
後ろ姿を見送り、襖を開ける。
中には下着のまま真っ赤な顔のネコ娘がいた。
「ネコ娘や、鬼太郎も悪気があった訳じゃないんじゃし、許してやるんじゃぞ。」
「わかってる!鬼太郎は悪くない!・・・でも・・・。」
そこまで言うと、泣き出した。
「鬼太郎に見られたぁ~!!恥ずかしくて会えないよぉ~!!」
わんわん泣いているネコ娘を見て、砂かけ婆はやれやれと肩を竦める。
「ネコ娘や、恥ずかしかったじゃろうが、
これで少しは鬼太郎の態度も変わるかもしれんぞ?」
さっきの鬼太郎の反応を見た砂かけ婆は、何かを察した。
「ひっく・・・どういうこと・・・?」
興味が湧いたのか、こちらを見て言葉の続きを待っている。
「これからは女性として見てくれるかもしれんという事じゃよ。」
ぽかんとしているネコ娘を、砂かけ婆は優しく見つめた。


長屋へは目玉おやじの用事で来たのだが、今は戻れない。
鬼太郎の
心臓は、まだ煩く鼓動していた。
(参ったな・・・。)
まさかネコ娘に対してこれほど動揺するとは思わなかった。
(着痩せするタイプなんだ・・・。)
と、さっき見たネコ娘の下着姿を思い出して、また顔の熱が上がる。
(・・・ネコ娘も女性なんだな・・・。)

砂かけ婆の予想は当たった。
今回のことで、鬼太郎はネコ娘を異性として意識し始めることになる。

二人の春は間近に迫っていた。

 

 

 

 

TOPへ   展示部屋へ