ある日の夕方のこと。
朝からアルバイトをしていたネコ娘は、帰りに妖怪長屋へと訪れていた。
「これなんかどうじゃ?」
「わぁ!綺麗!これがいい!」
ネコ娘と砂かけ婆は、長屋の二階にある砂かけ婆の部屋で
数々の浴衣を広げていた。
「これでいいんじゃな?」
「うん!でも、ホントにもらっちゃっていいの?」
「遠慮なんかするでない。どうせわしが持ってても、
箪笥の肥やしにしかならんしの。」
「ありがとう、おばば!」
ちょうど箪笥の整理をしていた砂かけ婆を訪ねてきたところ、
好きな物を持っていけと言われ、ネコ娘はちょっと大人っぽい、
桜が描かれた浴衣を選んだ。
「着てみてもいい?」
「一人で大丈夫か?」
「うん!大丈夫!」
そう聞いて、砂かけ婆は部屋を出た。
襖が閉まるのを確認すると、ネコ娘はジャンパースカートとブラウスを脱ぎさった。
すると、
「おばば?」
という声がして、襖が開いた。
「あ・・・。」
「にゃ・・・?」
声の主は鬼太郎だった。
てっきり砂かけ婆がいるのかと思い襖を開けてみると、
そこには下着姿のネコ娘がいた。
二人の時が止まる。
「ぎにゃああぁぁぁぁ~~!!!!」
再び時が動き出した時には、長屋が震えるかと思うほどの悲鳴が響き渡った。
鬼太郎はその悲鳴で眩暈を覚えたが、
「ごっ!ごめん!!!」
と、なんとか謝り襖を閉めた。
部屋の中ではネコ娘が、
部屋の外では鬼太郎が、
顔を真っ赤にして、胸の鼓動を高鳴らせていた。
するとそこへ、砂かけ婆が慌ててやってきた。
「一体何事じゃ!?」
「あ・・・おばば・・・・。」
「鬼太郎、何があったんじゃ?」
と問いかけてから、鬼太郎の顔が赤いことに気付いた。
「・・・そういうことか。」
その顔を見れば、ネコ娘の着替え中に部屋に入ったであろうことが瞬時にわかった。
「おばばが・・・いるかと思って・・・。」
鬼太郎は頭を掻きながらそう呟くように話す。
「まぁ、事故じゃな。ネコ娘の機嫌もそのうち直るじゃろう。
今日は帰るがよい。」
砂かけ婆が慰めるようにそう言うと、
「う、うん、そうするよ。」
と言って、鬼太郎は帰っていった。
砂かけ婆はその後ろ姿を見送り、襖を開ける。
中には下着のまま真っ赤な顔のネコ娘がいた。
「ネコ娘や、鬼太郎も悪気があった訳じゃないんじゃし、許してやるんじゃぞ。」
「わかってる!鬼太郎は悪くない!・・・でも・・・。」
そこまで言うと、泣き出した。
「鬼太郎に見られたぁ~!!恥ずかしくて会えないよぉ~!!」
わんわん泣いているネコ娘を見て、砂かけ婆はやれやれと肩を竦める。
「ネコ娘や、恥ずかしかったじゃろうが、
これで少しは鬼太郎の態度も変わるかもしれんぞ?」
さっきの鬼太郎の反応を見た砂かけ婆は、何かを察した。
「ひっく・・・どういうこと・・・?」
興味が湧いたのか、こちらを見て言葉の続きを待っている。
「これからは女性として見てくれるかもしれんという事じゃよ。」
ぽかんとしているネコ娘を、砂かけ婆は優しく見つめた。
長屋へは目玉おやじの用事で来たのだが、今は戻れない。
鬼太郎の心臓は、まだ煩く鼓動していた。
(参ったな・・・。)
まさかネコ娘に対してこれほど動揺するとは思わなかった。
(着痩せするタイプなんだ・・・。)
と、さっき見たネコ娘の下着姿を思い出して、また顔の熱が上がる。
(・・・ネコ娘も女性なんだな・・・。)
砂かけ婆の予想は当たった。
今回のことで、鬼太郎はネコ娘を異性として意識し始めることになる。
二人の春は間近に迫っていた。
終