ある日のゲゲゲハウス。
「お茶入れるね。」
ネコ娘が鬼太郎の空になった湯呑みを持って立ち上がる。
しかし2、3歩進んだところで素っ頓狂な声があがる。
「にゃっ!?」
その声に吃驚して鬼太郎が振り返ると、
ドスンという音がしてネコ娘が尻餅をついた。
更にガチャンという音。
「いたぁ~い!」
と言いながら打ったお尻を撫でていたが、
次の瞬間、
「あぁ~!!」
という驚きの声。
視線の先を見てみると、鬼太郎の湯呑みが真っ二つになっていた。
「あ・・・。」
「・・・ごめんなさい。」
唖然としている鬼太郎に向かって素直に謝る。
「あぁ、仕方ないさ。」
しゅんとしているネコ娘を見て、鬼太郎は穏やかに笑う。
しかし、ネコ娘は申し訳なさそうに後片付けを終えると、
「・・・あたし、買いに行ってくる!」
と言ってあっという間に出て行ってしまった。
風のように去ったあとには、鬼太郎と目玉おやじがポツンと残された。
急いで人間界まで来たネコ娘は、デパートに向かっていた。
食器売り場へ行くと、いろんな湯呑みが並べられていた。
「う~ん、どれがいいかなぁ・・・。」
鬼太郎のことだからあまり派手なものは好まないだろうと、
渋めの物を探していた。
するとあるコーナーが目についた。
「ペア食器・・・かぁ・・・。」
順番に見ていくと、茶碗やお椀、湯呑みもペアの物ばかりだった。
「あっ。」
見つけたのは、色は渋めだが桜の柄が入ったペアの湯呑みだ。
「可愛い!これなら鬼太郎も使ってくれるよね!」
鬼太郎の湯呑みを買いに来たのだが、
考えてみればあの家にはしょっちゅう行くのだから、
自分の分もあっていいのではないか、と考えた。
(あ、でもこれって、夫婦茶碗ならぬ夫婦湯呑み・・・?)
そこまで考えて、なんだか恥ずかしくなってしまう。
(鬼太郎とお揃い・・・。)
そう心の中で呟くと、恥ずかしくも嬉しさで顔がにやける。
そのままレジへ向かい会計を済ませ、鬼太郎の家へと急ぐ。
やがてゲゲゲハウスの下まで来ると、ネコ娘は急に不安に襲われた。
(鬼太郎はなんて言うかな・・・。もし拒否されたらどうしよう。)
そう考えると家に入るのが怖くなってしまった。
すると、
「ネコ娘?入らないのかい?」
と、上から声が降ってきた。
「あ・・・、うん、今行く!」
そう答えて戸惑いながら梯子を上がり、中に入る。
「早かったね。」
「う、うん・・・。」
「?どうしたんだい?」
中に入ったものの、立ったままのネコ娘を鬼太郎が不思議そうに見上げる。
「ううん、別に。」
そう言ってひとまず座る。
そして持っていた紙袋から湯呑みを一つ取り出し、おずおずと鬼太郎に手渡した。
「気にいるかどうかわからないけど・・・。」
と、念を押す。
鬼太郎は不思議そうに、包んである新聞紙を開ける。
中から出てきたのは桜の花が描かれた湯呑み。
それを手に取り、
「へぇ~、なかなかいいね。」
と言って微笑んだ。
それを見て、ネコ娘はホッとした。
「よかったぁ~。」
「あれ?これは?」
いつの間にか自分の横に置いておいた紙袋を鬼太郎が持っていた。
「あっ!それは・・・。」
と、止める間もなく、鬼太郎は新聞紙を剥がす。
「あ・・・。」
「?色違いの湯呑み?」
こっそり持って帰ろうかと思ったが、あっさり見つかってしまう。
「あ、そっ、それ、あたしの分も買ったの・・・。」
恥ずかしそうに、申し訳なさそうに俯いている。
あぁ、そういうことかと、鬼太郎は理解した。
「これ、ここで使うんだろう?」
「えっ?」
思わぬ鬼太郎の言葉に顔をあげる。
すると、鬼太郎は二つの湯呑みを持って、にっこりと笑っていた。
「あ・・・、うんっ!」
それまで不安そうだった顔が、一気に笑顔になる。
「じゃあ早速お茶にするね!」
ネコ娘はいそいそとお茶を入れにいく。
それを見て鬼太郎は、
(本当に君は、見てて飽きないね。)
と、心の中で呟く。
鬼太郎には、たまたま見つけた対の湯呑みを嬉しそうに
手に取るネコ娘の姿が、容易に想像できてつい顔が緩む。
そんなことを考えてるうちに、
ちゃぶ台ではお揃いの真新しい湯呑みに、
湯気が立ち上っていた。
ある晴れた日の風景。
終