それぞれの思惑

それは、うぶめとの闘いから数日後のゲゲゲハウスでのこと。

いつものようにだらだらと寝転がっている鬼太郎と、
お気に入りの
紅茶風呂に浸かっている目玉おやじ、
それをぼーっと眺めているねこ娘がいた。
すると、ねこ娘は頬に手を充てながら思い出すように呟いた。

「はぁ~、赤ちゃん、可愛かったなぁ~・・・。」
それを聞いて目玉おやじが反応した。
「ふぅむ、確かにのう。鬼太郎まで赤子がえりしたときは焦ったが、
今考えると懐かしいのう。」
そう言ってしみじみと思い出に浸っている。
「そうそう!あの時は必死だったから気付かなかったけど、
可愛かったわよねぇ~。」
うっとりとしているねこ娘に、寝転がっていた鬼太郎が反論する。
「もう、やめてくれよぉ・・・。」
恥ずかしくてふて腐れたように言う。
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「だって、あたしを見て、『おかあさん』なんて~。」
ムフフとにやけて見せる。
「えぇ!?僕そんなこと言った!?」
赤子がえりしている間の記憶がない鬼太郎には初耳だ。
「うむ、確かに言っておったのう。」
「ね~?」
目玉おやじとねこ娘は楽しそうだが、鬼太郎は居心地が悪かった。

「あ~あ、あたしも赤ちゃん欲しくなっちゃったなぁ~。」
相変わらず夢見がちなねこ娘に、
「おぉ、ワシも早く孫の顔が見てみたいもんじゃわい。」
と、目玉おやじも乗ってきた。
「えぇ~・・・。」
楽しそうな二人を見て、一人おいてけぼりの鬼太郎。
「そうじゃねこ娘、鬼太郎を婿にもらってくれんかのう?」
「えぇ~!?もう!おやじさんったら~!」
冗談なんだか本気なんだかわからない会話を、ただ困り顔で見ている鬼太郎。
と、そこへ化け烏がやってきた。
「おぉ、もうそんな時間か。」
そう言って、目玉おやじは化け烏に飛び乗った。
「父さん、出かけるんですか?」
「うむ、ちょっと 子泣きのところへ行ってくるからの。」
行ってらっしゃい、と二人に見送られ、目玉おやじは出かけていった。

「・・・・。」
「・・・・。」
さっきまでの楽しい会話が途切れてしまい、
なんだか急に恥ずかしくなったねこ娘と、
何かを考えている鬼太郎。
「・・・おやじさん、また将棋かな?」
と、わざと明るく言ってみるが、鬼太郎は聞いていないようだった。
「・・・鬼太郎?」
そんな鬼太郎を不思議に思い、声を掛けてみる。
鬼太郎は意を決したように、
「・・・仕方ないな。」
と言いながら、おもむろに腰を上げ ねこ娘に近づいていく。
「えっ、ちょっ、鬼太郎・・・?」
ただならぬ雰囲気に、ねこ娘は思わずたじろぐ。
だが鬼太郎は止まることなく、やがてねこ娘の体は組み敷かれていた。
あまりのことに、ねこ娘はただただされるがままになっていた。
「あの・・・、きた・・ろ?」
かろうじて名前を呼ぶ。
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すると、鬼太郎はねこ娘の耳元で囁いた。
「父さんの望みを無碍には出来ないんだ。」
「??」
ねこ娘は耳まで真っ赤にしながら、意味が分からずただ固まっている。

「・・・ねこ娘も子供、欲しいんだよね?」
「にゃっ!?」
そこまで聞いて初めて意味を理解した。
耳元では鬼太郎がクスクスと笑っている。

が、

「・・・鬼太郎の・・・」
「?」
「ばかぁ~~~!!!」
そう叫んだと思ったら、鬼太郎を突き飛ばして脱兎のごとく走り去ってしまった。
「・・・。」
突き飛ばされた鬼太郎はしばらく呆然としていたが、
やがてぷっ、と吹き出した。
子供が欲しいなどと言ってはいても、いざとなればこうだ。
(まったく・・・。)
鬼太郎は肩をすくめる。
(今は逃してあげるよ。君が本気になるまではね・・・。)
人知れず、その隻眼に闇を湛え、クスクスと楽しそうに笑う。

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一方ねこ娘は、真っ赤な顔で走っていた。
(鬼太郎のばか!いきなりな上に、おやじさんのためだなんて!!)
と、一人怒りながら高鳴る胸が治まるのを待っていた。


考えあってのことかどうかは定かではないが、仕掛けた本人は・・・

「二人はうまくやっとるかのう?」
「う~む、鬼太郎もねこ娘もまだまだ子供じゃからの~。」
「孫の顔を見るのは、当分先かのう。」
などと、将棋を打ちながら、子泣きじじいと呑気に話していたのだった。


 

 

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